2021年4月16日


講演者: 伊地知 雄太

Speaker: Yuta Ijichi

Title: Local structural analysis of coppers in the adsorption reaction onto ferromanganese oxides and in the polymorph selection of calcium carbonates.

タイトル:   鉄マンガン酸化物吸着反応および炭酸カルシウム結晶多形選択時の銅局所構造解析

 地球表層環境において元素の移行経路や物質形成時の化学環境(pH・酸化還元状態など)を推定する際、堆積物等の地球化学的試料中の元素濃度比や安定同位体比が広く用いられている。天然試料から得られるこれらの化学組成を信頼できる指標とするためには、対象とする系の化学反応機構を分子レベルで理解する必要がある。X線微細構造解析法(X-ray absorption fine structure analysis: XAFS)はX線の吸収スペクトルから構造解析を行う分析手法である。原則的に試料形態(気体・液体・固体)によらず、元素選択的な分析が可能である。本研究では、主要な海洋堆積物である鉄マンガン酸化物と炭酸カルシウムに関する二つの化学反応について、XAFS 法による局所構造解析を用いて議論する。

 鉄マンガン酸化物は鉄オキシ水酸化物とマンガン酸化物から成る、深海性の堆積物である。安定同位体比を用いて銅の海洋中循環を調べた研究によると、鉄マンガン酸化物は海洋深層において銅の軽同位体の除去源として考えられている(Takano et al., 2014)。一方で、実験室内での再現実験では、鉄オキシ水酸化物へ銅の重同位体の優先的な吸着が報告されている(Balistrieri et al., 2008)。しかし、鉄マンガン酸化物中での銅のホスト相はマンガン酸化物であると報告されていることから(Sherman and Peacock, 2010)、マンガン酸化物での銅同位体分別についても明らかにする必要がある。また、天然系での銅同位体比変動を議論するためにも、XAFS 法を用いて鉄マンガン酸化物中での銅の化学種分析を行った。

 海水中から沈殿する炭酸カルシウムは主にカルサイトとアラゴナイトの二つの結晶多形に分かれて生成する。結晶多形を制御する主な要因は海水中マグネシウム・カルシウム比(Mg/Ca)であると考えられており、マグネシウムイオンが多量に共存する環境下ではアラゴナイトが支配的に生成する(Kitano 1962)。しかし、イオン半径がカルシウムイオンに比べて小さいマグネシウムイオンの炭酸塩は、陽イオン席が比較的小さいカルサイト構造が安定である。本研究では、マグネシウムイオンよりもアラゴナイト生成を促進することが知られている銅イオンを添加して炭酸カルシウムを合成した(Kitano 1969)。銅はXAFS 分析をする際に結合の対称性に敏感なピーク形状を示すため、結晶中での構造解析に適すると考えられる(Garcia et al., 1989)。合成した炭酸カルシウムを放射光施設にてXAFS測定を行い(Photon factory, BL-12C)、結晶中での共沈元素の化学形態と結晶多形選択への影響を考察した。