2021年7月9日

Date: 16:00 – 18:00, Friday, July 9, 2021

講演者:森悠一郎

Speaker:Yuichiro Mori

Title:Neutron diffraction and X-ray diffraction of hydrogen dissolved in Fe0.9Si0.1 at high pressures and high temperatures using multi-anvil press

地球核の“軽元素問題”は地球科学において第一級の課題である。高圧環境下において水素は鉄に固溶して鉄水素化物を形成することから、水素は軽元素の有力な候補として注目されてきた。しかし、実験による直接観測には幾らかの障壁がある。中性子回折はX線回折と異なり、散乱断面積が原子番号に依存しないため金属水素化物中の水素を可視化するための強力なツールである。そこで、高温高圧下で中性子回折が可能な大容量プレス「圧姫」を用いてFe-H系の先駆的な研究が行われてきた。

しかし、これらの実験研究は単純な鉄水素2成分系で行われ、実際の地球核に含まれると予想されている他の成分の影響は未解明である。また、中性子回折はX線回折に比べて桁違いに弱い強度しか得られないため、試料体積と長時間の測定が必要である。よって試料体積が必要であることは高圧発生とは相反しており、中性子回折の到達可能な圧力領域が低い。そのため、これまでの研究では鉄の高圧相であり、地球内核の結晶構造の有力な候補であるhcp構造での水素化を中性子回折で視る実験はほとんど先例がなく、あっても低圧相が共存しているものがほとんどであった。そこで、二段目アンビルをMA6-8型にすることで、高温高圧下での中性子回折の発生圧力領域は15 GPaを超えはじめ、鉄合金hcp単相での中性子回折にも成功化できた。

本講演では、高温高圧中性子回折実験の圧力発生領域の現状と大容量プレスにMA6-8型を組み込むことによって行った高温高圧下における放射光X線回折と中性子回折を用いたFe0.95Si0.05の格子体積測定実験と水素化実験についてのべる。この温度圧力はマントル遷移層にかかり始める領域であり、水素の挙動が重要となるこの部分での中性子回折が可能となってきている。

講演者:沼倫加

Speaker:Norika Numa

タイトル:隕石中から微粒子を抽出するための液中レーザーアブレーション法の開発

Title: Development of Laser Ablation in Liquid Method to Extract Fine Particles from Meteorites

鉄よりも原子番号の大きい元素である重元素の多くは,s-processやr-processといった中性子捕獲反応により合成される.s-processはAGB星、r-processは超新星爆発や中性子星合体などでおこる(和南城, 2014)と言われているが,重元素の合成環境に伴う同位体組成の推定の報告が少ない.そこで,プレソーラーグレインの同位体組成を直接分析することによる制約が必要である.プレソーラーグレインとは,太陽系形成以前の微粒子のことで(Lewis and Anders, 1983),nm–µmの粒径をもつ.これまでの手法では,炭素や窒素などの主要軽元素の同位体異常により粒子の起源が同定されてきた.一方,重元素合成に関する情報を取得するためには,プレソーラーグレイン中の重元素を直接測定することが必要である.そこで,今回はPtの同位体比分析による重元素合成環境の制約に着目した.Ptは同位体ごとにs-processとr-processの寄与が異なるという特徴を持つ(Arlandini et al., 1999).従来のプレソーラーグレイン測定では,二次イオン質量分析法(e.g., Marhas et al., 2007)や加速器質量分析法(e.g., Ott et al., 2012)などが用いられてきたが,微量重元素の測定や粒子ごとの分析が困難であった.そこで,ICP質量分析計(ICP-MS)に着目した.ICP-MSは,大気圧高温プラズマをイオン源に用いた質量分析法で,重元素の高感度分析や迅速な微粒子分析が可能である.また,多重検出器型ICP-MSを用いることで,微粒子の同位体比分析が可能である. 隕石から微粒子を抽出する方法として,酸分解(Amari et al., 1994)やマイクロミル(e.g., Nakanishi et al., 2018),凍結融解法(e.g., Yuen et al., 1984)などが用いられてきた.前処理が複雑なことや,ナノメートルサイズの微粒子の単離が困難といった問題点があった.そこで本研究では,液中レーザーアブレーション(LAL)法に着目した(Okabayashi et al., 2011).Elasayedらはバルク体に対するLAL法について,生成される微粒子の凝集や破砕の影響を確認している(Elsayed et al., 2013).しかし,微粒子に対するLAL法に伴う凝集・破砕の影響は確認されておらず,プレソーラーグレインの単離に応用する上で懸念が残る.そこで,粉末Agナノ粒子を用いて,レーザーのフルエンスと発振周波数の比較や分散媒の比較を行い,Agナノ粒子の凝集や破砕を抑えるLAL法の条件を検討した.その後,本手法を用いてAllende隕石のマトリックスから微粒子をサンプリングし,これらのPt同位体比分析を行った.本発表では,実験結果と考察について発表する