2021年10月8日

Date: 16:00 – 18:00, Friday, October 8, 2021 

講演者:中里雅樹Speaker: Masaki Nakazatoタイトル:飛行時間型ICP質量分析計を用いたジルコンの希土類元素・U–Pb年代の深さ方向分析
Title: Depth Analysis of Rare Earth Elements and U–Pb Ages of Zircons Using ICP-Time of Flight-Mass Spectrometer

 ジルコン粒子の成長過程における周囲の環境の化学的な情報は、粒子の成長に従って中心部から表皮方向に向けて堆積していく。したがって、表皮からコアへと向けた深さ方向の微量元素分析を行うことで、鉛とウランの同位体比からは粒子構造の形成や変成に関する年代情報を、希土類元素組成からは結晶化時のマグマの化学的性質や変成の履歴を読み取ることができる(e.g., Whitehouse, 2003)。そこで本研究では、未研磨状態のジルコン粒子について表皮からの微量元素分析が可能なレーザーアブレーションICP質量分析法(LA-ICP-MS法)に着目し、希土類元素や鉛、ウランの深さ方向同時分析法の確立を目指す。
 レーザーアブレーション試料導入法では、高発振数フェムト秒レーザーを用いた高速多点レーザーアブレーション法(msLA法)により、試料表面を広く浅くサンプリングすることができる。先行研究では、msLA法と高感度な多重検出器型ICP質量分析計(MC-ICP-MS)を組み合わせることにより、ジルコンの最外リムについて約0.1 µmの深さ方向空間分解能でのU–Pb年代測定が達成された(Iwano et al., 2021)。一方、MC-ICP-MSでは同時検出可能な同位体の数と質量範囲に制約があるため、同手法ではU–Pb年代値に加えた希土類元素の測定は困難であった。多元素分析には四重極型ICP-MSも広く用いられるが(e.g., Yuguchi et al., 2020)、msLA法で得られる信号は時間幅が数秒未満の過渡的なものであるため、複数同位体の測定における透過効率の減少や繰り返し再現性の低下などの問題があった。
 そこで本研究では、広い質量範囲の同位体を同時検出可能な飛行時間型ICP-MS(ICP-TOF-MS)に着目し、msLA法と組み合わせることで、1 µm未満の深さ方向分解能での希土類元素組成・U–Pb年代同時分析を試みた。実験では、希土類元素組成および鉛ウラン同位体比が既知の標準ジルコンを用いることで、分析の正確さや繰り返し再現性を検証した。また、同手法により高ヒマラヤ変成岩由来のジルコン粒子を測定したところ、深度ごとの鉛損失の傾向や希土類元素組成の変化が確認された。本発表ではこれらの結果について紹介する。

講演者:仁木創太Speaker: Sota Niki
タイトル:高速多点フェムト秒レーザーアブレーションICP質量分析法を用いた局所ウラン–トリウム年代測定法の開発
Title: Development of an in situ 238U–230Th dating method using multiple-spot femtosecond laser ablation ICP mass spectrometry ウラン–トリウム(238U–230Th)年代測定法は、ウラン系列の中間生成核種である230Th(半減期約7万5000年[1])を活用した年代測定法である。238U–230Th年代測定法は数万年スケールの地質現象解明に適用できるため、特にウラン濃集鉱物であるジルコンの年代分析を通したマグマ活動評価に用いられている[3]。噴出年代の高精度制約およびマグマだまりの滞留時間制約には数10から数100粒子のジルコン試料および火山ガラス試料に対して年代分析を行う必要があり、迅速に信頼できる年代データを得るためには局所分析法の改良が不可欠である。 230Thは238Uと比べて10-5程度の存在度であり、質量分析法を用いて正確に測定するには干渉を低減・補正する必要がある。 230Thの局所分析を実施した先行研究では、試料中夾雑成分に由来する多原子イオン(Zr2O3+など)や 232Th+からのテーリングがスペクトル干渉として報告されている[5]。先行研究では、高質量分解能の磁場型質量分析装置を用いることで干渉を除去し、二次イオン質量分析法(SIMS)やレーザーアブレーションICP質量分析法(LA-ICP-MS)により測定が行われてきた。しかしながら、この方法では夾雑成分に由来する個々の干渉イオンの同定が必要であり、分析試料中夾雑成分に由来する干渉イオンを予測できなければならない。したがって未知試料を測定する場合には干渉イオンの生成に対して注意を要し、特に多様な夾雑成分を含む一方230Th濃度が数10 pg g-1程度と低濃度である火山ガラス試料の分析には不適である。 本研究では高速多点フェムト秒レーザーアブレーションICPトリプル四重極型質量分析法(msfsLA-ICP-TQ-MS)を用いたジルコンおよび火山ガラスに対する局所238U–230Th年代測定法の開発を行った。トリプル四重極型質量分析装置に搭載されているコリジョン/リアクションセルを活用することで高い干渉除去能を実現することができ、多様な夾雑成分を含む試料に対しても目的同位体の測定について高い信号対バックグラウンド比を達成できる。さらに高周波数レーザー(c.a. 10 kHz)を採用したmsfsLA法により検出限界を向上し[6]、微量な230Thの検出を可能とした。msfsLA法により1試料の分析に要するレーザー照射時間は数秒程度に短縮され、分析時間についても改善された。先月の地球化学会年会では標準ジルコン測定結果および実際の第四紀軽石試料(姶良カルデラ州崎軽石)に含まれるジルコン年代分析結果を報告したが、本発表ではそれらに加えて州崎軽石の火山ガラス試料分析結果を報告する。