2021年11月12日

Date: 16:00 – 18:00, Friday, November 12, 2021

発表者:磯部隆仁

Speaker: Ryuto Isobe

タイトル:レーザー加熱ダイヤモンドアンビルセルを用いたXe流体中におけるポストペロブスカイト相CaIrO3の高温高圧下での挙動

Behavior of post-perovskite structure CaIrO3 in Xe fluid under high pressure and high temperature using laser heated diamond anvil cell

Xe は、Ne, Ar, Kr などの他の貴ガス元素に比べると最外殻電子と核の結合が弱いため、電気陰性度の高い元素に よって酸化されやすく、フッ化物や酸化物などが常温常圧で安定に存在できる。近年では、計算機実験によって高 圧下での他元素との反応が予測され、Xe が H, C, N や金属とも化合物を形成することが実験的に検証されている。 一方、現在の地球大気中における Xe の濃度は始原的隕石であるコンドライトと比較して 90 %程度枯渇している。 これはミッシングキセノン問題と呼ばれており、地球大気の形成過程を考える上で大きな課題である。この問題を解決するために、地球内部で Xe が保持されている可能性が示唆されてきた。地殻や核の構成物質と Xe の反応性については先行研究で広く調べられているが、いまだにミッシングキセノン問題について合理的な説明は与えられていない。本研究では地球マントル 最下部 D”層に存在する MgSiO3 ポストペロブスカイト相のアナログ物質である CaIrO3 と Xe の反応性についてレーザー加熱ダイヤモンドアンビルセル(DAC)を用いて調べている。本セミナーでは、CaIrO3とXeの高温高圧下における反応性についての検討とXeとArの比較実験について結果を報告し、議論したいと考えている。

発表者:沼 倫加

Speaker: Norika Numa

タイトル:Allende隕石マトリックス中の微粒子のPt, Ir同位体比分析 Title:Pt and Ir isotopic ratio analysis of fine particles in the Allende meteorite matrix

鉄よりも原子番号の大きい元素である重元素は、主としてs過程やr過程といった中性子捕獲反応により合成される。こうした中性子捕獲反応は、AGB星や超新星爆発、中性子星合体等の極端環境で進行するため(例えば、和南城, 2014;Yokoyama and Tsujimoto, 2021)、元素の合成環境を定量的に把握することは困難である。さらに、太陽系形成時に起源の異なる物質は混合されるため、個々の元素合成過程や反応の素過程に関する情報を引き出すことは難しい。そこで本研究では、太陽系形成時の物質混合を免れたプレソーラー粒子に注目し、その元素組成と同位体組成から元素合成の素過程や銀河内での物質輸送過程の情報を引き出すことを目指している。
プレソーラー粒子は隕石マトリックス(nm–µm程度の微粒子の集合体)に、数十~百万個に数個の割合で含まれ、太陽系形成以前の物質化学情報を保持する(Lewis and Anders, 1983)。これまで、プレソーラー粒子は、炭素や窒素等の軽元素同位体組成(太陽系平均組成との大きな偏差)で特徴づけられてきた。しかし、軽元素と重元素は元素合成過程が異なるため、重元素合成過程に関する情報を引き出すためには、重元素同位体組成の直接分析が必要である。そこで本研究では、同位体毎にs過程とr過程の寄与が異なる特徴を持つ白金(Pt)に注目し(Arlandini et al., 1999)、加えて、Pt微粒子に一緒に含まれているとされるIrにも着目をした。
プレソーラー粒子はその小さなサイズ(<1 µm)から、精密同位体分析には二次イオン質量分析法(e.g., Marhas et al., 2007)や加速器質量分析法(e.g., Ott et al., 2012)などが用いられてきた。しかしこれらの分析手法は、必ずしも重元素に対して高感度な手法ではなく、さらに超微粒子個別の元素・同位体分析には不向きである。そこで、本研究では、超微粒子の個別重元素同位体が可能な高時間分解能型ICP質量分析計(ICP-MS)に着目した。ICP-MS法を用いた個別粒子分析を行うためには、隕石中のナノ粒子を高速で抽出するための手法開発も必要である。隕石マトリックスの粒子抽出には、これまで酸分解(Amari et al., 1994)やマイクロミル(e.g., Nakanishi et al., 2018)、凍結融解法(e.g., Yuen et al., 1984)などが用いられてきたが、いずれもナノメートルサイズの超微粒子の分散および高収率回収が困難である。そこで本研究では、液中レーザーアブレーション法(LAL法)に注目した。
今回の発表では、LAL法を用いてAllende隕石のマトリックスからPt, Ir微粒子の抽出を行った後、ICP-MSを用いて微粒子のPt, Ir同位体分析を行った結果と考察を紹介する。