2022年1月28日

Date: 16:00 – 18:00, Friday, January 28, 2022 

発表者:田中栄成

Speaker: Eisei Tanaka

タイトル:  ICP質量分析計による高感度ウイルス検出法の開発
Title: New Analytical Technique for Rapid and Sensitive Detection of Virus using ICP-Mass Spectrometer

ウイルスは自身の細胞を持たずDNAやRNAなどの核酸とそれを包むタンパク質の膜で構成されている。ウイルスは動植物の細胞内に入り込み、そこで自身のDNAを複製することで増殖する。ウイルスの多くはヒトの健康に悪影響を及ぼすことが報告されており、よく知られているウイルスとしてはインフルエンザウイルスやHIVウイルスなどが挙げられる。また昨今では新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が注目される中、感染症の原因たるウイルスの高感度で迅速な検出が求められている。
一般的なウイルスの検出として、PCR法(Polymerase Chain Reaction) や抗原抗体反応を利用した検出方法が利用されている。しかし、PCR法では検出所要時間が長く(Song et al., 2012)、抗原抗体反応では感度や精度が低い(Tokuno et al., 2015)ことなどが課題となっている。そこで、本研究では元素の高感度・迅速分析が可能なICP質量分析法(ICP-MS 法)に着目し、ICP-MS 法を応用したウイルスの検出法の開発を目指した。分析対象ウイルスのDNA(もしくはRNA)やウイルスのスパイクタンパク質にナノ粒子を標識し、ナノ粒子に関して ICP-MS 法で分析を行うことで、間接的にウイルスの検出を行う。金ナノ粒子(Au NPs)の表面にチオール化した DNA プローブを結合させられることは既に報告があり(Zhang et al., 2012)、対象のウイルスが持つDNAと相補的な塩基配列を持つプローブナノ粒子を作成することでウイルスをナノ粒子で標識(ハイブリダイズ)することができる。また、ICP-MS 法では個々のナノ粒子の検出が可能であるため、ウイルスを一個からの検出が期待できる。
ウイルスを正確に検出するためにはプローブ溶液中の金ナノ粒子の挙動、特に凝集について理解する必要がある。ICP-MS法では凝集したナノ粒子は一つの大きな粒子として測定されるため、検出されるナノ粒子濃度(検体中のウイルス濃度)についての確度低下が懸念される。本発表ではプローブ溶液中で金ナノ粒子が凝集しうる原因を考察しその検証を行い、その結果を報告する。

発表者:村上喬紀

Speaker: Takanori Murakami

タイトル: X線回折およびラマン分光法によるNH4Clの相転移の観察

Title: The observation of the phase transition of NH4Cl by X-ray diffraction and Raman spectroscopy

NH4Clは、室温においてはCsCl型構造(空間群:)の無秩序相(II相)であるが、-30 oCで空間群: の秩序相(IV相)へと転移する(Yurtseven et al., 2007; Heyns, 1980)。相転移温度は圧力とともに上昇し、室温下でも約0.9 GPa以上で秩序相となる。また、更に加圧すると11 GPa以上でV相へと転移することが知られている。この圧力誘起相転移については、多くの先行研究があるものの、意外にもX線・中性子回折法による構造研究例はほとんどない。そこで、本研究ではX線回折を用いてNH4Clの圧力誘起相転移時の構造変化を捉えることを目的とした。

また、他のハロゲン化アンモニウムと同様に、NH4Clは常圧で加熱するとCsCl型構造のII相からNaCl型構造のI相へと転移するが、このI相はプラスチック相ではないかと予想されているものの未だ確認されていない(Ross, Sandberg, 1979)。そのため本研究ではラマン分光法によるアンモニウムイオンの配向の無秩序性の確認を試みた。

 今回、試料であるNH4Cl粉末と状態方程式から圧力を算出するためのNaClを圧媒体であるダフニーオイル(Daphne7575)とともにダイヤモンドアンビルセル(DAC)に封入した。本実験では、DACにとりつけたベローズをヘリウムガス圧で膨らませることで一定の速度で加圧しながら、連続的にX線回折パターンを取得した。この連続的な加圧と測定により、非常に細かい圧力ステップでX線回折パターンを得ることが可能になった。また、対称型のDACを用いて、NH4ClのV相へと転移できる圧力まで加圧し、得られたX線回折パターンを解析することで、圧力の増加に伴う結晶構造の変化を観察した。