2022年2月4日

Date: 16:00 – 18:00, Friday, February 4, 2022

発表者:堀越洸

Speaker: Ko Horikoshi

タイトル:ICP-TOF-MSによる軽元素分析のための四重極安定領域図の活用Title: Application of quadrupole stability diagram to light element analysis by ICP-TOF-MS

超微粒子とは粒径が1 μmよりも小さな粒子のことである。超微粒子は大きな比表面積を有するため、バルク体とは異なる特異的な性質を示す。超微粒子はこの性質を利用して抗菌剤(e.g., Seino et al., 2016)やエネルギー材料(e.g., Medintz et al., 2016)として利用される。また、火力発電や自動車の排気によっても超微粒子は生成されており、人体や環境へ与える影響が懸念されている(e.g., Castelo et al., 2017; Stralkowska, 2021)。超微粒子の特性や、与える影響を評価するためには超微粒子の分析が必要である。

本研究では大気圧高温プラズマをイオン源とし、飛行時間型質量分析計を組み合わせた飛行時間型ICP-MS(ICP-TOF-MS)に着目した。ICP-TOF-MSは高い時間分解能を有するため、超微粒子などの過渡信号であっても多元素同時分析することができる(e.g., Borovinskaya et al., 2014; Baalousha et al., 2021)。しかし、ICP-TOF-MSで通常測定できる元素の範囲はNa–Uである。そのため、単一超微粒子から重元素とBやCといった軽元素を同時分析することができない。本研究では軽元素の透過効率を改善するために四重極セル電圧に着目した。四重極セルには直流、交流電圧が印加されており、その電圧値によってある質量のイオンが透過できるか決まる。四重極セルにおけるイオンの挙動を理解するため、イオンが安定に運動できるかを判別できる四重極安定領域図に着目した。

本発表では四重極安定領域図を作成した結果、質量走査線を作成して四重極セルを透過できる質量範囲について検証した結果を発表する。

発表者:秋本篤弥

Speaker: Atsuya Akimoto

タイトル:アラニンの圧力誘起オリゴマー化反応の生成物に対するエナンチオマー過剰の影響

Title: Effect of enantiomeric excess on the products of pressure-induced oligomerization of alanine

地球上の生命はL体のアミノ酸のみで構成される。しかし、前生物的な環境を保持していると考えられる隕石からはD体も検出されている。Elsila et al. (2016)では、隕石中のアミノ酸のほとんどがラセミ体であるが、一部にL体過剰が見られると報告されている。L体のみが使用される状態(ホモキラリティ)に至る過程の一つとしては、不正増幅の可能性があげられる。

不正増幅は、初期に過剰だった異性体の比率が上昇するものでいくつかの実験報告がある。もっとも単純な不正増幅は、アミノ酸単独で起きるもので、Gravin et. al (2019)は水溶液中で溶解と再析出によって存在量が多いエナンチオマーの結晶が成長し、不斉増幅が起きることを報告している。また、Viedema et al. (2011)ではバリンを加熱し、昇華・再結晶させることで不斉増幅が起きることを報告している。これらの実験はアミノ酸分子がモノマーのままで不斉増幅するものであり、オリゴマー化の過程には注目していない。

圧力は強制的に分子間の距離を縮めることができ、圧力誘起による有機物の反応がいくつか報告されている。タンパク質を構成するアミノ酸の一つであり、キラリティを持つ最小のアミノ酸であるアラニンの圧力誘起オリゴマー化も報告されている(Fujimoto et. al, 2015)。

そこで、圧力誘起によって生成するアラニンオリゴマーに不斉増幅の傾向が見られるかを実験的に調べることとした。出発試料のエナンチオマー過剰率(ee)の違いと、生成するオリゴマーの異性体比率の関係を調べるため、ee=0% , 50%, 100% の出発試料で高圧実験を行った。また、回収試料の分析のため、二量体と三量体の各異性体を合成し標準試料とした。

本発表では、高圧実験で生成したオリゴマーの種類及びその生成量の分析結果と、出発試料のエナンチオマー過剰率の関係について考察する。