2022年4月15日

Date: 16:00 – 18:00, Friday, April 15, 2022

発表者:岩野 英樹

Speaker: Hideki Iwano

タイトル:ウラン-238自発核分裂を利用した年代測定と今後の展開

238Uを親核種とする放射年代測定法としてU-Pb法がよく知られているが、核分裂飛跡(フィッション・トラック)法という手法があることをご存知だろうか? フィッション・トラック(FT)とはウランやトリウムなど原子番号の大きい原子核が中性子あるいは他の高エネルギー粒子の衝突で質量数のほぼ等しい2つの部分に分裂する核反応、すなわち原子核分裂(nuclear fission)で出来た傷跡(track)を意味する。1本のトラックは、長さが10〜20ミクロンに対して幅は〜10nmしかなく、そのままでは見えない。エッチングという化学腐食処理で光学顕微鏡下(約1000倍)で見えるレベル(約1ミクロン幅)まで拡大させることによって、この細長いトラックを形態上の特徴から人間が識別し計測する。FT年代測定は、天然において不安定で自発的に核分裂を起こす性質を持つ238Uに基づいている。中性子が衝突することで誘導核分裂を起こす235Uは、従来年代値算出に必要なウラン定量に使われてきた。238U自発トラック及235U誘導トラックのどちらにせよ、エッチングによる可視化が本手法にとって重要な実験操作である。しかし、エッチングという操作によって、“エッチングされず見えないトラック部分”が存在するというバイアスには長年気づかれなかった。著者は、鉱物(ジルコン、スフェン、アパタイト、白雲母)やプラスチックの中に生成されるトラックの長さのうち、エッチングで可視化される部分とエッチングされず見えない部分を定量化した。これをきっかけに飛跡検出(トラック)法に内在するバイアスが考慮されるようになり、FT年代測定法開発当初から未解決であった壊変定数問題のブレイクスルーとなった。最近では、原子炉での中性子照射を伴うウラン定量に代わりLA-ICPMS法が導入され、FTーU-Pbダブル年代測定法が行われるようになっている。本発表ではFT法の基礎を簡単に紹介し、今後の新たな研究目標と方針についてお話しする。

発表者:高橋 菜緒子 

Speaker: Naoko Takahashi

タイトル:高温高圧下その場観察・ラマン分光法によるアルカリ性水溶液中の石英溶解度とケイ酸塩構造の測定

シリカ(SiO2)は、地殻やマントルの岩石を構成する酸化物であり、地球深部に存在する超臨界水に主成分として溶解する。流体を媒介したシリカの輸送は、天然のプレート境界岩に観察されるケイ酸塩鉱物脈や地球物理観測から示唆される石英異常濃集帯の存在などから示されている。また、溶存ケイ酸塩はアルミニウムなどの金属元素の溶解を促進することが知られている。このような地球深部条件における岩石­–水反応や流体によるシリカおよび金属元素の輸送を理解するためには、高温高圧流体中のケイ酸塩溶解度と溶存形態に関する基本的な知識が不可欠である。

       本研究は、地球内部に向かって沈み込んでゆく地殻物質と化学的に平衡状態にある流体が普遍的にアルカリ性であるという近年の熱力学計算の結果に着目し、最大750 °C、1.5 GPa条件でアルカリ性水溶液(Na2CO3およびNaOH水溶液)中の石英溶解度とケイ酸塩構造を調べた。本実験は、東北大学で立ち上げた外熱式ダイヤモンドアンビルセル(DAC)装置を用いたその場観察・ラマン分光測定システムにより、上述の流体への石英溶解度とケイ酸塩構造の同時測定を試みた。これにより、化学種の平衡に基づく溶解度計算との結果比較が可能となり、単純な中性種やイオンを考慮した既存のモデリングでは本実験で測定された石英溶解度と溶存化学種を再現できないことがわかった。さらに、Naイオンを含むケイ酸塩重合種がアルカリ性水溶液への高い石英溶解度に寄与する可能性が示された。本発表では、これらTakahashi et al. (2022)の実験手法と詳細の結果および今後の研究内容について紹介する。