2022年6月17日

Date: 16:00 – 18:00, Friday, June 17, 2022

発表者:仁木創太

Speaker :  Sota Niki

タイトル:変成岩に産する柘榴石のU–Pb年代系:大陸衝突期の高温変成作用に対する適用

Title : U–Pb isotopic system of metamorphic garnet: application for a high-temperature metamorphism during continental collision

変成岩に含まれる様々な鉱物の放射年代分析を通じた岩体の変成履歴解明により、過去の構造運動履歴を復元することが可能となる.プレートの沈み込みやその後の岩体の上昇速度の制約の上で累進変成作用およびピーク変成変成作用における変成年代の制約は重要であるが、それらに対する放射年代に基づく制約は困難であった。それは高温環境における元素の速い拡散(e.g. Cherniak and Watson, 2000)により鉱物が年代情報を保持し続けることが困難であるだけでなく、岩石が地球表層にもたらされる過程において変成および変質過程を経て年代情報が上書きされる恐れがあるからである。これまでの研究では深部地殻における高温環境に対して頑強なジルコンを用いて累進変成作用およびピーク変成変成作用の年代制約が試みられたが、副成分鉱物であるジルコンはその結晶成長が様々な変成段階で生じ(e.g. Harley, 2007)、その対応付けのため詳細な岩石組織観察、ジルコンを包有するホスト相との化学平衡、ジルコン中の高圧指標となる包有鉱物の有無などを確認する必要がある。

本研究では変成ジルコン年代の解釈に伴う恣意性を排除し、信頼できる変成年代の制約のため、柘榴石のウラン–鉛(U–Pb)年代系に着目した。柘榴石は変成岩中に主要構成鉱物として産し、柘榴石自身が高圧の指標鉱物であるため、得られた年代値と変成段階の対応関係が明瞭である。さらに柘榴石U–Pb年代系は高い閉鎖温度を有し、高温変成作用を記録可能なタイムカプセルとして活用できる(Mezger et al., 1991)。しかしながら、柘榴石はウラン濃度が低く高精度年代分析に適していない。したがってこれまでの研究では局所分析による内部組織を区別した柘榴石の年代分析は検討されてこなかった。そこで局所分析法の感度向上とU–Pb年代分析に適した初期鉛含有率の低い柘榴石の産状検討を通じ、実際に発表者は三波川帯に産する高圧結晶質石灰岩中の灰礬柘榴石に対するU–Pb年代分析から当該地域におけるエクロジャイト相変成作用に対する年代制約を行うことに成功した(Niki et al., 2022)。

本研究では柘榴石U–Pb年代系の高い閉鎖温度を活用した大陸衝突期の高温変成作用に対する年代制約を試み、東南極セールロンダーネ山地メーニパに産する泥質変成岩を研究対象とした。メーニパは東西ゴンドワナ大陸衝突帯の構造境界付近に位置し、泥質変成岩中の柘榴石およびその分解組織中の鉱物には大陸衝突期の高温変成作用および岩体上昇期の後退変成作用が記録されている(e.g. Osanai et al., 2013; Kawakami et al., 2017)。そこで累進変成作用で形成された柘榴石と分解組織中のチタン石および燐灰石に対してU–Pb年代測定を実施した。本発表では得られた三種類の鉱物のU–Pb年代に基づき、当該地域における変成履歴と変成鉱物のU–Pb年代系に関して総合的に議論する。

発表者:田中栄成

Speaker :  Eisei Tanaka

タイトル:ICP質量分析計による高感度ウイルス検出法の開発

Title :  New Analytical Technique for Rapid and Sensitive Detection of Virus using ICP-Mass Spectrometer

ウイルスは自身の細胞を持たずDNAやRNAなどの核酸とそれを包むタンパク質の膜で構成されている。ウイルスは動植物の細胞内に入り込み、そこで自身のDNAを複製することで増殖する。ウイルスの多くはヒトの健康に悪影響を及ぼすことが報告されており、よく知られているウイルスとしてはインフルエンザウイルスやHIVウイルスなどが挙げられる。また昨今では新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が注目される中、感染症の原因たるウイルスの高感度で迅速な検出が求められている。
一般的なウイルスの検出として、PCR法(Polymerase Chain Reaction) や抗原抗体反応を利用した検出方法が利用されている。しかし、PCR法では検出所要時間が長く(Song et al., 2012)、抗原抗体反応では感度や精度が低い(Tokuno et al., 2015)ことなどが課題となっている。そこで、本研究では元素の高感度・迅速分析が可能なICP質量分析法(ICP-MS 法)に着目し、ICP-MS 法を応用したウイルスの検出法の開発を目指した。分析対象ウイルスのDNA(もしくはRNA)やウイルスのスパイクタンパク質にナノ粒子を標識し、ナノ粒子に関して ICP-MS 法で分析を行うことで、間接的にウイルスの検出を行う。金ナノ粒子(Au NPs)の表面にチオール化した DNA プローブを結合させられることは既に報告があり(Zhang et al., 2012)、対象のウイルスが持つDNAと相補的な塩基配列を持つプローブナノ粒子を作成することでウイルスをナノ粒子で標識(ハイブリダイズ)することができる。また、ICP-MS 法では個々のナノ粒子の検出が可能であるため、ウイルスを一個からの検出が期待できる。
ウイルスを正確に検出するためにはプローブ溶液中の金ナノ粒子の挙動、特に凝集について理解する必要がある。ICP-MS法では凝集したナノ粒子は一つの大きな粒子として測定されるため、検出されるナノ粒子濃度(検体中のウイルス濃度)についての確度低下が懸念される。
本発表ではフィッティングによる凝集体の定量的な評価を行い、その結果を報告する。