Date: 16:00 – 18:00, Friday, September, 22, 2022
講演者:小林 大輝
Speaker: Hiroki Kobayashi
Title: A journey in search of new phases of ice
水はもっとも日常的でありふれた化学物質であるが、低温高圧条件下では多種多様な結晶構造をもつ氷が存在し、その相図の全貌は未だ明らかになっていない。一般的に、氷の水素無秩序相(水分子がランダムに配向した結晶構造をもつ相)は、低温に冷却することで熱力学的により安定な水素秩序相(水分子の向きが規則的である相)へと転移するはずである。実際には、低温で水分子の動きやすさ(再配向ダイナミクス)が制限されるため、全ての無秩序相が無条件に秩序化するわけではないが、結晶に欠陥を導入するような酸や塩基を少量ドープすることで、水分子の動きを低温条件下でも促進させて(相転移のエネルギー障壁を乗り越えられるようにして)、かなりの数の無秩序相を秩序相へ相転移させることができる。このような秩序-無秩序相転移の存在は氷の類稀な構造多様性を支える柱といって差し支えないだろう。現在のところ、氷IIの無秩序相や、氷IV, XVI, XVIIの秩序相は未発見であり、いずれ新規相が発見される舞台となるだろう。また氷XIXの例が実験的に明らかにしたように、ひとつの無秩序相に対して圧力に応じて二つ以上の秩序状態が存在することも不思議ではなく、既知の無秩序相-秩序相のペアについて相転移挙動を詳しく調べることもまた、氷の振る舞いをより深く理解するために有益に違いない。
今回のセミナーでは、まず冒頭で今後すべての研究を方向付けるような根本的な問いを提示し、現時点で描いている青写真を示す。次に、学部の頃から続けてきた氷IVの研究について、我々が行った最新の中性子回折実験を中心にデータを紹介し、それらの解釈を議論したい。
講演者:小杉 周平
Speaker: Shuhei Kosugi
タイトル:レーザーアブレーション・スプリットストリームによる磁場型ICP-MS、トリプル四重極型 ICP-MSを用いたジルコン試料の U、Th、Pb 同位体の同時測定
Title:Simultaneous measurement of U, Th, and Pb isotopes in zircon samples using sector field ICP-MS and triple quadrupole ICP-MS with laser ablation split stream
238U–230Th非平衡年代測定法は、ウラン系列の中間生成核種である230Th(半減期7.5×104年:Cheng et al., 2013)を用いた測定法である。数万年程度の時間分解能でウラン濃集鉱物の結晶化年代を推定することが可能であるため、火山噴出物中のジルコンに対して局所U–Th年代分析を行うことで、火山噴火やマグマ活動の経時変化に関する知見を得ることができる(Schmitt, 2011)。しかし、この方法により測定スポットごとに年代計算を行うためには、ジルコン結晶化時の230Th/238Uを仮定する必要があるが、この値は一定でない可能性が指摘されている(Boehnke et al., 2016)。
本研究では、ウラン系列の最終的な安定核種である206Pbを加味した238U–230Th–206Pb年代測定法に注目した。この方法により、ジルコン結晶化時の230Th/238Uを仮定せずに、測定スポットごとの年代値を求めることができる。しかしながら、この方法では初期鉛や汚染鉛の寄与が無視できず、正確な年代値を求める上ではその寄与を差し引く必要がある。そこで本研究では、トリウム系列やアクチニウム系列を利用した年代分析法と比較しながら初期鉛や汚染鉛の寄与を評価することで、正確な年代分析を試みた。
このような年代分析を行う上では、U、Th、Pb同位体を同時に測定する必要がある。本研究室の装置を用いてこれらを高い透過効率で正確に測定するために、レーザーアブレーション・スプリットストリームにより四重極型ICP-MSと磁場型ICP-MSの両装置に対して同時に試料導入し分析する方法を試みた。この方法により、はじめにジルコンの標準試料(91500ジルコン、GJ-1ジルコン、Plešoviceジルコン、OD-3ジルコン、Bishop tuffジルコン)からU–Pb年代および230Th/238U分析を行い、その信頼性を評価した。さらに天然の第四紀火山噴出物由来のジルコン未知試料(三瓶木次ジルコン)についてU、Th、Pbの同位体比を用いて粒子ごとの年代分析を試みたので、その結果を本発表で報告する。