2022年12月9日

Date: 16:00 – 18:00, Friday, December, 9, 2022 

発表者:煙山優太

Speaker:Yuta Kemuyama

タイトル: DBDイオン源に適した溶液導入法の開発

Title: Development of liquid sample introduction system for DBD ion source

有機化合物を対象とした質量分析法では得られた質量スペクトルから化合物の分子量を決定する。加えて、分子が分解して生じるフラグメントイオンのパターンから分子の構造に関する情報を得ることもできる。
これまで有機化合物の質量分析法については真空下で作動する高速原子衝突イオン化法(FAB)、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI)、2次イオン質量分析法(SIMS)などが用いられてきた。しかし、真空下では利用できるサンプルが限られることやサンプリングとイオン化が同時に起こる点が問題視されてきた。そこで近年では、真空下のイオン化法に変わる新しい手法として大気圧イオン法が注目されている。大気圧イオン化法では液体クロマトグラフィー(LC)やレーザーアブレーション装置(LA)と接続することで多様なサンプリング法を用いることが可能な(Khoo et al,. 2022)上に、中には前処理なしで簡便に質量スペクトルを得られる手法(DESI(Takats et al,. 2004), DART(Robert et al,. 2005), DBDI(Na et al,. 2007))も開発されている。
本研究では、試料溶液を超音波加湿器(BRUNO Personal humidifier Tulip Stick 2)を用いて霧化し、Arガスによって霧化した溶液を大気圧イオン源であるDielectric barrier discharge (DBD)イオン源に導入する新たな溶液導入法の開発を目指している。本発表では基礎的な実験として上記の実験系において溶液試料由来の擬似分子イオンピーク[M+H]+の検出確認と繰り返し再現性の評価を行った。本発表ではその結果を報告し、今後の実験計画についても簡潔に紹介する。

発表者:高野将大

Speaker:Masahiro Takano

タイトル: 高温高圧条件でのFeS水素化挙動の研究

Title: Study of hydrogenation on FeS at HPHT condition

地球核は主に鉄と約10%のニッケルの合金で構成されているが、その密度は純鉄と比較して外核は5-10%ほど、内核は3-6%ほど小さく(e.g., Birch 1964; Kuwayama et al., 2020など)、この密度欠損は地球核中にH、C、O、Si、Sなどの軽元素が存在することが原因であると考えられている(e.g., Poirier 1994)。地球核組成の制約は地球の形成過程に関わる非常に重要な問題であるが、現在に至るまで十分な制約は得られていない。宇宙存在度が最も大きい元素である水素は、高温高圧条件下で親鉄性を示し、鉄の結晶格子間サイトに入り水素化鉄FeHxを形成する(Fukai 1984)。鉄は水素化により融点が大きく下がり(Sakamaki et al., 2009)、体積も大きく膨張する(Badding et al., 1991)ため、地球核中の軽元素の有力な候補であると考えられており、鉄の水素化挙動を解明しようという取り組みがこれまで多くなされてきた。
実際の地球核は水素以外の元素も含む多成分系であるため、水素以外の元素が鉄の水素化に与える影響について議論する必要があるが、他の元素が鉄の水素化に与える影響を調べた研究は少なく(e.g., Mori et al., 2022; Shito et al., 2022)、地球核中に存在する水素以外の元素が鉄の水素化に与える効果について更なる研究が必要とされている。
本研究は、水素以外の軽元素として、始原的隕石中に普遍的に含まれ、水素同様に鉄の融点を下げる効果を持つ硫黄に着目し、典型的な鉄-硫黄系物質であるFeSの
①水素貯蔵量の上限
②水素の安定位置
③水素誘起体積膨張率(単位胞に入った水素原子一個あたりの体積膨張率)
④金属鉄と共存した際の水素の分配
について、中性子回折及びX線回折による高温高圧その場観察実験と、第一原理計算によるシミュレーションを組み合わせて解明することを目的としている。
今回の発表では、第一原理計算を用いて得られたFeS中の水素位置と水素誘起体積膨張率についての予察的な結果、及びPF-ARで実施した高温高圧X線その場観察実験について簡潔に紹介する。