Date: 16:00 – 18:00, Friday, December, 23, 2022
発表者:青木勝敏
Speaker:Katsutoshi Aoki
タイトル: 鉄水素化物の構造解析の初歩
Title: Elementary lecture on the structure refinement of iron hydride
太陽系において鉄と水素はそれぞれ最も多量に存在する金属元素と軽元素であり、両元素間の反応は46億年の地球進化を理解する上でのひとつの鍵となる。鉄は難水素化金属であり、通常の温度圧力下では水素と反応しないが、数100 K−数GPaの高温高圧下では水素原子が鉄の格子間を占有する水素化物が形成される。鉄水素化物は常温常圧下では不安定で鉄と水素に分解することから、高温高圧下で合成した後、低温常圧下で回収した試料を用いて結晶・磁気構造が調べられてきた。高温高圧下のその場観察は1980年代に放射光とマルチアンビル型高圧発生装置を組み合わせた我が国独自の装置・技術開発によって可能になり、2000 K−10 GPa までの温度圧力領域の相図が決定されている。
2011年、J-PARCに超高圧中性子回折実験ビームライン(PLANET)が完成し、翌年2012年には放射光X線回折技術を転用して鉄水素化物の中性子回折実験が開始された。以降、鉄水素化物に関連する研究成果の発信が続いている。最近では地球科学の視点からFe-Ni合金(市東)、Fe-Si合金(森)さらにはFeS化合物(高野)の水素化物研究へと展開されている。
中性子回折の強みは金属に溶解した水素原子の占有サイトと占有率を測定できることである。測定された粉末回折プロファイルにリートベルト解析(Rietveld refinement)を適用して水素原子のサイト占有率を含む構造パラメータの最適化を図る。これまで鉄水素化物の多形(fcc面心最密充填構造、hcp六方最密充填構造、dhcp二重hcp構造)の構造・磁気構造の最適化を試みられているが、水素のサイト占有率は他の構造パラメータ(Fe、D原子変位パラメータ)との相関が強く、正しく占有率が決定されているか一抹の不安が過ることも少なからずある。
鉄からその合金、化合物へと中性子回折実験が展開されつつある今、リートベルト解析の留意点を整理しておくことは意義があるであろう。高水素濃度のfcc鉄水素化物の解析では消衰効果の補正が必要であることが最近、柿澤によって示された。消衰効果はこれまで粉末回折プロファイルの解析には不要とされていた。消衰効果発現の原因についての考察も合わせて報告する。
発表者:上園麻希
Speaker:Maki Uezono
タイトル: LAL-ESI-MSによるカフェインの分析のためのピークと最適パラメータ値の測定
Title: Determination of peak and optimal parameter values for the analysis of caffeine by LAL-ESI-MS
生体は様々な物質から成り立っており、タンパク質などの有機化合物もその形成に大きな役割を持つ。しかし、これらの有機化合物は疾患の原因にもなりうる可能性があり、例えばタンパク質の一種のアミロイドβタンパク質は脳に凝集することでアルツハイマー病を引き起こすと考えられている(Hardy et al., 2002)。そのため、幅広い質量範囲の有機化合物を局所的に分析する質量分析法が求められている。
現在、有機化合物のイオン化法として、主に飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS(Benninghoven, 1994))、高速原子衝撃法(FAB(Barber et al., 1981))、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI(Mamyrin, 1994))、エレクトロスプレーイオン化法(ESI(Kebarle et al., 1993))が用いられている。このうち、ESIは特に幅広い質量範囲を測定可能である反面、溶液分析のために局所分析が行うことができない。そこで、ESIと液中レーザーアブレーション法(LAL)と組み合わせることで、局所的に固体試料にレーザーを照射して溶液化することができるため、LAL-ESI-MSの利用を考えた。
本発表では、LAL-ESI-MSでの測定の準備段階として行ったESI-MSでの実験について発表する。水溶性の低分子有機化合物であるカフェインの溶液試料を用いて、どのようなピークやフラグメントイオンがみられるか、そして、試料溶媒の最適なメタノール混合比、最適ヒーター温度についての評価を行ったため、その結果を報告し、今後の実験計画についても紹介する。