2023年1月13日

Date: 16:00 – 18:00, Friday, January, 13, 2023 

発表者:名和大輝

Speaker:Hiroki Nawa

タイトル: 生体試料中のタンパク質と金属イオンの同時検出に向けて

Title:Simultaneous detection of proteins and metal ions in biological samples

アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病などに代表される神経変性疾患では、組織に不溶性の繊維状タンパク質がみられることが特徴的である。この不溶性タンパク質はペプチドやタンパク質が凝集してできるものであり、例えばアルツハイマー患者の脳にみられるアミロイド斑は、分子量約4000Daのアミロイドβ単量体が凝集してできたものである。

アミロイドβ凝集体や、凝集過程に生成する可溶性オリゴマーやプロトフィブリルは神経毒性をもつため、アルツハイマー病に関与していると考えられている。その一方で、アルツハイマー病患者の脳には通常より多くの銅、亜鉛、鉄、アルミニウムなどが含まれることから、金属イオンとアミロイドβの相互作用がアルツハイマー病発症に関与しているという仮説がある。しかしながら、脳という複雑系でアミロイドβと金属イオンの関係を示すことは難しいため仮説の域を出ない。

そこで本研究では、アミロイドβと金属イオンの関係を議論するために、LA-ICP-MSを用いて金属イオンとタンパク質を同時検出しイメージング分析する手法に注目した。本発表では、イメージング分析にLA-ICP-MSを用いる優位性や、タンパク質と金属イオンを同時検出するための手法について説明する。

発表者:八木健彦

Speaker:Takehiko Yagi

タイトル: 地球深部に存在する高圧鉱物たちは、実験室内の高圧実験でどのようにして発見されたのか?

Title:How were High-Pressure Minerals Existing in the Deep Earth Discovered in Laboratory Experiments ?

今地球深部のことを学ぼうとするとまず、上部マントルを構成する最も主要な鉱物であるオリビンは、深さと共にその構造を変え、深さ400km付近を越すとワズレアイトを経てリングウッドアイトに変化する、と習うであろう。さらにそれが、660km以深の下部マントルではブリッジマナイト(+ペリクレース)に変化し、コアーマントル境界付近ではブリッジマナイトはポストペロブスカイト相に転移する、と教えられる。しかし私が研究生活を始めた1970年代にはこれらの高圧鉱物の存在は全く知られていなかった。それはひとえに当時の高温高圧実験技術がまだ地表から300km位までのP-T条件しか作り出せなかったからである。その後数多くの研究者の努力によって高圧実験技術が飛躍的に進歩しこれらの新しい知見が得られたわけであるが、そこには人間が主体のさまざまなできごとが絡んでいる。このセミナーでは、そのような普通の教科書にはあまり出てこない、各個人に重点を置いた科学の進歩の歴史を紹介したい。