2023年4月28日

Date: 16:00 – 18:00, Friday, April, 28, 2023

講演者: 伊藤 颯(鍵研D2)

Speaker: Hayate Ito

タイトル:ピストンシリンダーを用いた高圧下その場熱分析装置の開発

Title: Development of in-situ thermal measurement system under high pressure using a piston cylinder.

水は最も我々にとって身近な物質である一方で、密度の4℃での密度極大をはじめとする様々な水の物性の異常の原因については未だよくわかっていない。氷には二つのアモルファス氷、LDA(low-density amorphous ice)とHDA(high-density amorphous ice)が存在し、これらは圧力に対して一次相転移的な変化を示すことが知られている。もしこれらが異なる二つのアモルファス相であるならば、これらに対応した二つの液相の存在と、この二つの液相の間の臨界点(第二臨界点)の存在が予想される。この仮説を第二臨界点仮説といい、このモデルは様々な水の異常物性をうまく説明できることが知られている。また、ほかの種類のアモルファス氷としてHDAを低圧下でアニーリングするとeHDAと呼ばれる構造に、高圧下で加熱するとVHDAとよばれる構造に変化することが知られている。これら二つの間はLDA-HDA間のように不連続な相転移的挙動を示さないが、回収試料のガラス転移点は0.8 GPa付近を境に大きく変化していることを示唆しており、VHDA-HDAが異なった相である可能性が考えられる。

本研究ではピストンシリンダー中で交流法を用いた比熱測定システムの開発を行うことによってこれらアモルファス氷のガラス転移点の圧力変化を高圧下その場で調べることを目標としている。。交流法は試料に交流変化する熱を与えた際の試料の温度変化の大きさと応答の速さを測定することで熱伝導率・比熱を求める手法である。この測定は試料に与えた熱を正確に評価することが難しく、確度があまり高くないという問題点がある一方、試料のサイズが小さくてもよい、原理上サンプルを外部と完全に断熱する必要がない、測定精度が比較的高い、などの利点があげられ本研究でターゲットとする高圧セル中でのガラス転移の測定という目的に見合っている。本セミナーではこの装置の開発の進捗状況と現在抱えている測定上の問題点について発表する。

発表者: 嶋 健皓(鍵研M1)

Speaker: Takehiro Shima

タイトル: トリディマイト(SiO2)の単結晶X線構造解析を目指した試料合成

Title: Sample synthesis for a single crystal X-ray structure analysis of tridymite (SiO2)

【緒言】

トリディマイトは石英に代表されるシリカ(SiO2)多形の一つで、天然では隕石や火山岩に産出する。トリディマイトの安定領域は、大気圧下において867-1470℃であるが、温度が下がる過程でわずかに原子が変位することで、MC、MX-1、PO-nなど、多くの異なる構造(modification)を持つことが知られている(貫井・中沢、1980)。しかしながら、トリディマイトのmodificationが存在する、圧力、温度、冷却速度などといった詳細な条件がこれまで十分に調査されていないのが現状である。また、各modificationはそれぞれ構造が似通っているので、同定するのが容易ではない。例えば、粉末X線回折では、大まかな構造は分かるが、構造が似通ったmodificationを区別するのは困難である。最近Kanzaki (2019)により提案されたラマンスペクトルを用いた同定方法は簡潔な方法であるが、modificationごとのスペクトルの違いが明瞭とは言えず、また全ての既知のmodificationのラマンスペクトルは得られていない。単結晶X線回折はもっとも正確な同定ができるが、一方で100 μm程度の大きな結晶が必要である。

本研究では、単結晶X線構造解析で構造決定が可能な、大型のトリディマイト単結晶(100 μm程度)を合成する方法を探ることと、modification、単結晶X線回折パターンとセルパラメータ、明瞭なラマンスペクトルを組み合わせて、様々なmodificationがどのような温度と冷却速度の条件で形成されるのかを明らかにすることを目的に実験を進めた。

【実験方法】

以下の二通りの方法でトリディマイトを合成し、得られた試料を光学顕微鏡、ラマン分光法、粉末および単結晶X線回折法で評価した。

①石英粉末にフラックスとして炭酸カリウム(K2CO3)を4 wt%あるいは10 wt%混合し、ペレットに成型し、管状電気炉を用いて空気中で加熱した。合成時の最高温度1160℃-1362℃まで約8時間かけて温度を上げ、1-2時間保持した後、7時間以上かけて室温まで下げた(Kanzaki, 2019)。

②非晶質SiO2とフラックスとして酸化リチウム(Li2O)、酸化バナジウム(V2O5)をモル比5:12:60で混合し、ペレットに成型して加熱した。1000℃及び1100℃まで約5時間かけて温度を上げ、30時間保持した後、50時間以上かけて室温まで下げた。回収試料のフラックスは約5 Mの硝酸で溶かした(井上, 他、1979)。

【結果】

①の方法で得られたトリディマイト試料では、いずれの条件でも不定形で不透明な塊が見えたが、個々の結晶は5 μm以下であり、大型の単結晶は確認できなかった。得られたトリディマイトの粉末X線回折パターンの多くはMCで指数付けされたが、一部はMX-1のピークの計算値と一致するように見えるが実際には不明のピークだった。ラマンスペクトルはKanzaki (2019)によって報告されたMCのスペクトルと一致しているとみられるものと、どのmodificationとも一致していないか、結晶配向が異なるMCの可能性があるものが得られた。

②の方法で得られたトリディマイト結晶では、いずれの条件でも大きさが70-80 μmで透明な自形結晶が見られた。得られた試料の一つについて単結晶X線回折を試みたところ、OCとセルパラメータが類似した双晶であることが明らかとなった。得られたラマンスペクトルを既知のOCのスペクトル(Kihara et al., 2005)と比較したが、明確に同定することはできなかった。

 今後はフラックスの種類・最高温度・保持温度・冷却速度・圧力等を変えながら様々な合成条件を検討し、それぞれのmodificationがどのような生成条件で生成するかを明らかにする予定である。また、単結晶X線回折で構造を決定した試料のラマンスペクトルを測定する予定である。