2023年5月12日

Date: 16:00 – 18:00, Friday, May, 12, 2023

発表者:中里雅樹

Speaker:Masaki Nakazato

タイトル:レーザーアブレーションICP質量分析法によるナノ粒子の個別分析法の開発

Title:Development of analytical technique for individual nanoparticles using LA-ICP-MS

 プレソーラー粒子は炭素質コンドライトのマトリックスに微小量存在することが知られており、太陽系形成以前のイベントである元素合成に起源を持つ同位体組成を保持している(e.g., Clayton et al.; Amari et al., 1994; Davidson et al., 2014)。特に、プレソーラー粒子中の重元素(Feより原子番号の大きな元素)の元素組成および同位体組成は、これらの元素の合成過程であるs過程やr過程に関する情報を保持している可能性があり、重元素合成に関する物質的証拠として注目されている。このような化学的な情報を引き出すためには、個別のプレソーラー粒子(ナノ粒子)に対する迅速かつ高感度な多元素同位体分析法の開発・高度化が不可欠である。
 重元素合成に関する多くの先行研究では、酸分解法(Amari et al., 1994)によりプレソーラー粒子を単離・抽出した後、二次イオン質量分析法(SIMS)や共鳴イオン化質量分析法(RIMS)により個別粒子の同位体分析が行われてきた(e.g., Hoppe and Ott, 1997; Ireland et al., 2018; Stephan et al., 2019)。酸分解法では、例えばSiCのような耐酸性の高い物質を選択的に抽出できる。しかし、酸分解法により抽出されたプレソーラー粒子の大半は単一の元素合成過程(AGB星におけるs過程)に起源を持ち、他の元素合成過程の情報を保持する粒子はほとんど発見されてこなかった。これを受けて、重元素合成に関する網羅的な情報を得るためには、酸分解法では損失してしまう物質(例えば金属粒子)も分析できるような、新しいナノ粒子抽出法の開発が不可欠である。
 そこで本研究では、レーザーアブレーション法を利用したナノ粒子の抽出に着目した。レーザーアブレーション法では、1 J/cm2以下程度の低いフルエンスを用いることで、ナノ粒子を個別に、破砕を抑えながらサンプリングできることが報告されている(e.g., Yamashita et al., 2019; Yamashita and Hirata, 2023)。また、ICP質量分析法と組み合わせることにより(LA-ICP-MS法)、毎分数百粒子程度の高スループットで、高感度な元素同位体分析が可能である。同手法は、これまでは生体試料中のナノ粒子分析に用いられており(e.g., Metarapi et al., 2019; Yamashita et al., 2019)、レーザー照射領域に存在するナノ粒子の数はせいぜい数個程度と限定的であった。これに対し、炭素質コンドライトのマトリックスはナノ粒子の集合体であるため、レーザー1ショットごとに多数のナノ粒子が抽出されることが予想される。したがって、LA-ICP-MS法を隕石中のナノ粒子分析に応用するためには、複数抽出されたナノ粒子をICP-MSで区別して計測できるような条件検討が必須である。

 本実験では、市販のSiO2粒子分散液(平均粒径500 nm)をアクリル板上で自然乾燥させた試料にレーザー(ビーム径3 µm)を照射し、ICP-MSで試料由来の28Siの信号強度をモニターした。本発表では、抽出された粒子の破砕や複数粒子の同時検出について評価した結果を報告する。

発表者:藤田了

Speaker:Satoru Fujita

タイトル: 飛行時間型ICP質量分析計の四重極バンドフィルターの分析性能評価

Title: Evaluation of analytical capability of quadrupole band filter equipped in ICP-TOF-MS

ナノ粒子は比表面積が大きいことからバルクと異なる化学的性質を持っていることが知られており、様々な研究分野での利用が進められている(例えば Guisbiers et al., 2011)。他方で人工的なナノ粒子が環境に与える悪影響も懸念されており(Guzmán et al., 2006)、高感度かつ高速なナノ粒子の検出の実現が求められている。

ナノ粒子の分析手法の一つとして誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)が注目されている。ICP-MS は高温のプラズマに試料を導入しイオン化させることによって質量分析を行う手法であり、動的光散乱法(DLS)や透過型電子顕微鏡法(TEM)などといった従来のナノ粒子の分析法では困難である個別ナノ粒子の元素組成、粒子サイズの高速測定(毎分100粒子以上)が可能であるという特⻑を有している。

本研究ではナノ粒子の元素・同位体分析に適した手法として、飛行時間型 ICP質量分析法(ICP-TOF-MS)に注目した。ICP-TOF-MSはイオンの飛行速度の違いを利用して質量分離を行う手法であり、単一粒子中の全質量範囲の同時検出が可能であるという利点がある。しかしプラズマや大気、マトリックス由来のAr+やArO+などの膨大な量のイオンをそのまま全て導入すると検出器にかかる負荷が大きいため、検出器の保護の目的でイオンを選択的に除去する機構が必要となる。代表的なイオン除去機構としてコリジョン・リアクションセル(CRC)、ノッチフィルター、四重極バンドパスフィルター(Q-Filter)が存在するが、それぞれに長所と短所がある。本研究はCRCとQ-Filterの比較を目的としており、本発表ではQ-Filterの使用の有無による銀溶液の測定結果の変化について報告し、また今後の実験計画についても紹介する。