Date: 16:00-18:00, Friday, April 18, 2025
発表者: 趙(チョウ) 馨雅
Speaker: ZHAO XINYA
タイトル: 誘電体バリア放電イオン源の定量性評価:複数種類のアミノ酸が共存する場合のイオン化効率の変化
Title: Ionization Features of Dielectric Barrier Discharge (DBD) Ion Source for Quantitative Analysis of Amino Acids in Mixtures
要旨:
生体内には多様な生体分子や金属元素が存在し、それぞれが重要な機能を担っている。生体内における金属元素の役割を通じて生体機能の解明を目指す研究分野は「メタロミクス(生体金属支援機能科学)」と呼ばれている(原口ら, 2020)。メタロミクス研究の急速な発展に伴い、生体内に含まれる金属元素の濃度や分布を分析するためのさまざまな手法が開発されてきた。たとえば、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)は、血液や尿、組織サンプル中の微量金属元素(鉄、亜鉛、銅など)を定量するために広く用いられており(一ノ瀬ら, 2020)、レーザーアブレーション(LA)と組み合わせたLA-ICP-MSは、組織切片中の金属元素の空間分布を可視化する手法として注目されている。一方で、金属に関する情報だけでは、金属と生体分子との関連性や、金属元素の機能を十分に解明することは困難である。このため、近年では、生体内における金属元素と生体分子の分布を同時に定量分析する手法の必要性が高まっている。
生体内の金属元素の分析に用いられるLA-ICP-MSは、主成分からppbレベルまでの微量金属元素の定量分析が可能であるという大きな利点を有する。一方で、イオン源として用いられるICPはガス温度が8000℃にも達するため、分子構造の破壊(フラグメンテーション)を引き起こし、分子情報を失ってしまうという課題がある。そこで本研究では、LA試料導入と組み合わせ可能な、生体分子分析に適した低温の大気圧イオン源を開発し、ICPと新規イオン源の併用による金属元素と生体分子の同時イメージング分析を目指す。生体分子分析のためのイオン源としては、誘電体バリア放電(DBD)に着目しており、これまでの研究から分子を壊さずにイオン化が実現可能であることが分かっている(Khoo et al., 2022)。しかしながら、生体試料のように多数の分子が共存する状態における、各分子の定量性やイオン化効率の変化に関する評価は不十分である。
そこで本研究では、2種類のアミノ酸を異なる体積比で混合したサンプルを作成し、混合条件による各アミノ酸のイオン化効率の変化を詳細に分析した。DBDイオン源内における分子のイオン化傾向を明らかにすることで、分子の定量情報が取得可能になると期待される。
発表者: 平田 和
Speaker: Yamato Hirata
タイトル: 水素結合型分子性一次元ナノ結晶細孔で合成されたPBMA高分子
要旨:
【目的】分子性のナノ細孔で合成された高分子は、構造規正された特異な配向を持つ高分子鎖を実現できると考えられている。このような高分子合成法は、金属有機骨格材料のMOFに よる合成がよく行われる。田所研究室では、自己組織化によっておよそ2nmの空孔サイズを持つ準一次元ナノチャネルを持つ分子性多孔質結晶{[CoⅢ(Hbim)₃]}n(1)(Hbim⁻=2,2’-biimidazolate monoanion)の合成に成功した。
この結晶1は、金属錯体が分子間水素結合のみで連結されているため、内部に生成した高分子を例えば水中で酸塩基処理するだけで単離生成することができる。また、溶解させた錯体を中性にするだけで元の多孔質結晶1に約98%リサイクルすることが可能である。本研究では、1の一次元ナノチャネル内で鋳型重合(熱ラジカル重合)を行い、重合されたPBMA(polybutyl methacrylate)ポリマーの性質について報告する。
【方法】モノマーであるBMA(butyl methacrylate)に対して重合開始剤のAIBN(azobisisobutyronitrile)を5.0 mmol%加え、冷蔵庫内で結晶1を1日漬け込むことで細孔内にBMAを取り込んだ。BMAを取り込んだ結晶1をAr下で70℃で24時間加熱し熱重合によってPBMAを得た。結晶1の多孔質骨格をHNO₃溶液(0.1 M)によって分解し、PBMAをアセトンに溶かし、これをメタノール溶液中に加え沈殿させることにより回収した。その後真空乾燥させることによって得られたPBMAに対しTG測定等を行うことにより評価した。
【結果と考察】
重合前の結晶と重合後の結晶に対して0℃〜400℃の条件でTG測定を行った。約300℃付近から結晶自身の崩壊が起こるため、300℃付近までの減少がモノマーであるBMAの消失にあたると考えている。これを基にすると重合前の結晶の質量減少はBMA2.16分子の消失と求めることができ、これにより単位細孔あたりにはBMAは約4分子取り込まれていることが分かった。一方、重合後の結晶の質量減少は、重合前に比べ安定であり、BMAがあまり抜けていないことが読み取れる。これにより確かに結晶内で重合が進んでいるのではないかと考察している。