2025年4月25日

Date: 16:00-18:00, Friday, April 25, 2025



発表者: 松岡伊織 (平田研D1)
Speaker: Iori Matsuoka

タイトル:科学警察研究所における研究
Title:Research at the National Research Institute of Police Science (NRIPS)

要旨
科学警察研究所において、化学分野の研究者として主として①火災残さからの可燃性液体の検出と分析手法を中心とした体形的アプローチの構築、②手製武器の起源推定を目的とした法科学的異動識別手法の構築を研究テーマとしてきた。後者の研究について発表する。
また、研究内容の発表に先立って、科学警察研究所と法科学という学術分野について紹介する。
[背景]
近年、手製武器を用いた重大犯罪が相次いでいる。その捜査の過程及び公判廷において被疑者の武器の入手経路や共犯者の存在といった事項は極めて重要となる。手製武器がどこで作製されたのかという情報はこのような問いに答えるものであり、起源推定法の開発の意義は高い。その手段として手製武器を構築する材料に着目した。このような武器は犯人が自宅等で市販の材料で組み上げるものであり、作製場所に材料の残余が残されている可能性が高い。場所と武器から回収した材料の比較によって関係性が証明できるほか、被疑者不明の多発的な手製武器事案(連続爆破事案等)では武器同士の関係性証明にも資することが期待される。
本研究では手製武器の材料として、電子回路部に使用されるはんだに着目した。はんだの法科学的識別の先行研究はあるが、試料の消費量等の点に課題が多い。解決策としてレーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析法(LA-ICP-MS)のはんだへの異動識別を試みた。
[手法]
LA-ICP-MSは法科学分野ではガラスの異動識別に使用されているため、ガラスの分析法の応用を試みた。この手法はガラス破片上の数点にレーザーを照射して得られた特定の元素強度の比率を利用するものであり、比較する試料について、指標となる元素すべてが一定の範囲で一致するか確認するものである。はんだにおいては含有する元素が異なることから、指標となる元素の選定や測定条件の検討を行った。さらに、先行研究では行われていなかった、実際にはんだ付けした試料についても分析を行った。
[結果と考察]
ガラスの手法をそのまま適応した場合、得られた元素の強度比が日内においても比較に適さないほど変動することが確認された。そのため、変動の影響を緩和するため、比較する試料を時間的に近接させる方式を採用した。
識別の指標となりうる元素を検討したところ、As、Pd、Ag、Cd、Sb、Au、Biが有効であった。これは先行研究で採用された指標元素と相当一致した。また、熱的影響を評価するため、未使用状態、はんだごてで融解させた試料、長時間はんだごてで加熱した試料、はんだづけした試料を定量分析した結果、指標となる元素の大きな変動はなく、LA-ICP-MSで得られた結果と整合した。



発表者: 川道 豪秀 (鍵研M1)
Speaker: Takahide Kawamichi

タイトル: 常温高圧条件下におけるL-アラニンの化学変化

要旨:
【序論】 アミノ酸は宇宙に存在することが報告されているほか、その重合反応は生命の起源に関わると考えられており、宇宙環境を模したアミノ酸の重合反応の研究が行われている。アミノ酸の重合反応は2分子間脱水縮合であり、吸熱的に進行する。そのため高温、脱水環境が反応を促進させると考えられている。また、高圧下ではアミノ酸の分子間距離が短縮し重合反応が促進される。先行研究 (Fujimoto et al., 2015)によってアラニン飽和水溶液にさらにアラニンを一定量加えた試料に常温で10 GPa級の圧力をかけると2量体が生成することが報告されている。また、粘土鉱物は乾燥状態においてもアミノ酸の重合反応を促進するという報告がある(Bujdak & Rode, 1998)。今回の研究ではL-アラニンとカンラン石の混合粉末を、加圧時間を変え400 MPaと800 MPaで加圧し、L-アラニンの化学変化をHigh Performance Liquid Chromatography (HPLC)とLiquid Chromatography-Mass Spectrometer (LC-MS)を用いて分析した。
【実験】メノウ乳鉢とメノウ乳棒を用いてL-アラニンとカンラン石をそれぞれ粉末にし、重量比1:10の混合粉末を調製した。各実験ではこの混合粉末を88 mg前後用いた。油圧式ピストンシリンダーを用いて室温で、 条件1(400 MPa, 120 min)、条件2(800 MPa, 120 min)、条件3(800 MPa, 360 min) の3つの条件で試料を加圧し、5 mLの超純水に溶解後、遠心分離(2500 rpm×5 min)にかけ上澄みを0.45 µmメンブランフィルターによりろ過し、実験生成物を得た。実験生成物はHPLCを用いてUV検出器(検出波長195 nm、254 nm)でクロマトグラムを得た。1つの条件に対して3回の実験を実施し、その平均値を結果として用いた。また、標準としてL-アラニン水溶液を0.40 g/L ~ 2.7 g/Lの濃度で10種類作成し、ピーク面積と保持時間の比較から、実験生成物のL-アラニンの濃度を推定した。また、条件3から得た実験生成物のみLC-MSを用いて分析し、クロマトグラムを得た。
【結果と考察】 HPLCを用いた分析では、L-アラニンのピークであると考えられるものが、実験生成物を分析したクロマトグラム中に確認された。得られたクロマトグラムにおいて実験生成物と標準との比較の結果、原料であるL-アラニンの消費率は条件1では1.1 %、条件2では1.5 %、条件3では5.7 %であった。以上のことから、より長い時間で高い圧力をかけるとL-アラニンは化学変化するといえる。ただし、加圧時間が等しい条件1と条件2では消費率がほとんど同じであることから、加圧時間に対する考察が必要であると考えられる。また、原料であるL-アラニンが実験生成物中に90 %以上存在していることや、得られたクロマトグラムから、L-アラニンの重合に対して十分な圧力と加圧時間ではなかったことが考えられる。続いてLC-MSによる分析ではアラニルアラニンの存在が確認された。しかし生成量は原料のL-アラニンに対しかなり少ない割合であったこと、副生成物であるシクロアラニルアラニンの生成が同等量確認されたことなど、アラニルアラニンの生成を目標とする条件としては不十分であると考えられる。