2025年5月2日

Date: 16:00-18:00, Friday, May 2, 2025



発表者: 栗原 かのこ(平田研D3)
Speaker : Kanoko Kurihara

タイトル:液中レーザーアブレーション法を用いた固体試料の価数分析
Title : Analysis of chemical valence of solid samples using laser ablation in liquid technique

要旨:
 価数分析は、環境分野における毒性評価(e.g., Oliveira, 2012)や工業製品の特性制御・劣化評価(西條, 2024; Wadati et al., 2010)、地球化学分野における元素の酸化状態や結晶中での元素の位置の推定(Cavé et al., 2006; Stachowicz et al., 2019)など、さまざまな研究領域で利用されている。特にガラスの製造では、透明度や色調の調整のために添加元素の価数制御が求められており、製品の評価における価数分析が必要不可欠である。

 固体試料中の元素の価数を分析する手法としては、化学(湿式)分析やX線吸収微細構造解析(XAFS)などの機器分析が代表的である。化学分析は、試料を酸で分解したのちに滴定や比色分析などを用いて価数分析を行う方法(e.g., 西條, 2024)で、低コストで高感度な分析が可能である一方、酸処理による価数変化や空間情報の喪失が問題となる。XAFSなどの機器分析(e.g., Sutton et al., 2020)では、高空間分解能で低濃度の元素まで測定できる利点があるものの、装置が高額であるため日常的な分析には適さない。

 このような背景から、空間情報を保持したまま簡便に価数分析が可能な手法が求められている。そこで本研究では、液中レーザーアブレーション(LAL)に着目した。LALでは、位置選択的なサンプリングが可能(Kurihara et al., 2023)であり、固相から液相に直接サンプリングができるため、得られた溶液をそのままイオンクロマトグラフィーなどで分析することが可能である。また、難溶性の物質を溶解できるという利点もある(Hirata et al., 2023)。このことから、LALを用いることで固体試料の空間情報を保持した簡便な価数分析が可能になると期待される。

 LALを用いた価数分析の適用可能性を調べるため、LALとイオンクロマトグラフィーICP質量分析法(IC-ICP-MS)を組み合わせて、ガラス試料中の硫黄の価数分析を試みた。本発表では、硫黄の価数を保存するためのに行った工夫と、実際に行った価数分析の結果を紹介する。



発表者: 松岡 友樹 (平田研M1)
Speaker : Tomoki Matsuoka 

タイトル:ケンドリック質量解析法によるポリマーの劣化評価

Title : Degradation evaluation of polymers by Kendrick Mass Analysis
要旨:
ポリマーは現代社会を支える重要な基盤材料であり、種々の部品がポリマーに代用されてきた。一方で、ポリマーは劣化する素材であり、例えば自動車部品のポリマーが劣化により破損すれば事故に繋がりかねない。ポリマーの劣化の一つの要因として、ポリマーの主骨格構造の変成が関与しており、光による過酸化物やラジカルの発生に伴う炭素鎖の切断(Carlsson
& Wiles., 1976)や熱による脱重合反応の進行(Simha & Wal.,
1951)が報告されている。劣化に伴うポリマーの主骨格構造の変成は質量分析計で捉えることができ、本研究ではレーザーアブレーション誘電体バリア放電イオン化質量分析法(LA-DBDI-MS)(Khoo
et al., 2022)を用いることでより迅速で簡便な分析が可能である。ただし、ポリマーを質量分析計で測定すると、モノマーの様々な繰り返し長さを持つフラグメントイオンにより膨大な数のピークが検出される。この複雑なマススペクトルを解析する手法がケンドリック質量解析法(Kendrick
et al., 1963)である。ポリマーのピークはモノマー単位で周期的に現れるため、ポリマーの精密質量からモノマーの周期成分を取り除くことにより、モノマー以外の共通した構造を持つグループごとに分類することができる。
本研究では慣用的にテフロンと呼ばれるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)にX線を照射することで劣化を再現し、X線照射部と非照射部を分析した。得られた煩雑なマススペクトルにケンドリック質量解析法を適用することで、フラグメントイオンの構造変化を推定し、X線照射がPTFEに与える影響について考察する。ケンドリック質量解析法はポリマーのみならず、脂質分子などの繰り返し構造を持つ分子に適用可能であり、生命科学分野への応用も期待される。