2023年5月26日

Date: 16:00 – 18:00, Friday, May, 26, 2023

発表者名:栗原かのこ
Name: Kanoko Kurihara

タイトル:飛行時間型ICP質量分析法を用いた生体試料の高速イメージング分析
Title: High-speed imaging analysis for biological samples using ICP time-of-flight mass spectrometry

 元素イメージング分析は、試料中の元素の位置情報と濃度情報を画像として得る分析であり、大面積のサンプルに対して高感度に元素イメージング分析を行う手法として、レーザーアブレーションICP質量分析法(LA-ICP-MS)が着目されている。LA-ICP-MSを用いたイメージング分析は、これまで生命科学研究から材料化学、環境・地球化学などの広い学術研究に応用されている(e.g., Becker et al., 2010; Amais et al., 2021)。近年、三次元のイメージング分析や、統計的な議論を行うためのビックデータ化が求められている一方で、この手法には、イメージング分析に要する時間と得られるイメージング画像の空間分解能がトレードオフであるという課題がある。そこで、本研究ではこのLA-ICP-MSを用いたイメージング分析の高速化を試みた。
イメージング分析の空間分解能を低下させずに高速化を図るには、信号持続時間を短くする必要がある。信号持続時間が短くなると、LA-ICP-MSで得られる信号が過渡的なものとなり、質量走査方式の装置では分析可能な元素数が限定されるという問題が顕在化する。そこで、過渡的な信号から多元素同時分析が可能な飛行時間型ICP-MSを用いて複数元素の高速イメージング分析を行った。
本発表では、LA装置内の試料セルの内容積や輸送チューブの長さを変えることで、試料エアロゾルの拡散を変化させた際の信号持続時間の変化を紹介する。また、マウス脳中の多元素同時のイメージング分析を行い、得られた元素イメージングを比較する。

発表者名:上園麻希
Name: Maki Uezono

タイトル:エレクトロスプレーイオン化質量分析法(ESI-MS)を用いたカフェイン試料溶液分析条件の最適化と検量線法による定量分析性能の評価
Title: Optimization of instrumental conditions for caffeine solution analysis and evaluation of quantitative analytical capability using calibration line method by electron-spray ionization mass spectrometry (ESI-MS)

 一般的に、生体物質はタンパク質や脂質などの有機化合物を指し、低分子量から高分子量まで様々なものが存在する。しかし、これらには疾患に関係があるとされるものも数多く、例えばアルツハイマー病患者の神経細胞のまわりにはアミロイドβタンパク質が凝集し、数十µmの神経突起斑がみられる(Hardy et al., 2002)。また、有機化合物の質量分析はハードイオン化法とソフトイオン化法に分けられ、分子を壊さずにイオン化できるソフトイオン化法を用いることで、質量スペクトルから分子量情報を簡単に得ることができる。よって、生体物質の分析でその機能や疾患のメカニズムを解明するためには、高分子量までの質量範囲の有機化合物をソフトにイオン化する、局所的な質量分析が必要となる。
現在、有機化合物のイオン化法として、主に飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS(Benninghoven, 1994))、高速原子衝撃法(FAB(Barber et al., 1981))、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI(Mamyrin, 1994))、エレクトロスプレーイオン化法(ESI(Kebarle et al., 1993))が用いられている。このうち、ESIは10万までの質量範囲を測定可能かつソフトイオン化法である反面、溶液分析のために局所分析が行うことができない。そこで、ESIと液中レーザーアブレーション法(LAL)と組み合わせることで局所的に固体試料にレーザーを照射して溶液化することが可能になり、この問題を解決できる。よって、本研究ではLAL-ESI-MSの利用について検討した。
本発表では、有機質量分析計QTofを用いて、ESIとその性能を調べる実験を行った。水溶性の低分子有機化合物であるカフェインの溶液試料について、試料溶媒の最適なメタノール混合比とカフェイン濃度と信号強度の関係性について測定を行った。その結果を報告するとともに、今後の実験計画について紹介する。