2023年6月2日

Date: 16:00 – 18:00, Friday, June, 2, 2023

発表者:小松 一生

Speaker:Kazuki Komatsu

タイトル:超高圧中性子回折実験による氷の水素結合対称化の観察

Title:Hydrogen-bond symmetrization of ice investigated by neutron diffraction under high pressure

氷中の水素結合が高圧下で対称化する現象は、半世紀以上前のice VIIに関する論文中 (Kamb, 1964)で”22 GPaを超える圧力で存在する”と予想された。その後、Goncharovら (1996)やAokiら (1996)によって分光学的手法によりH2Oで60 GPa以上、D2Oで70 GPa以上では氷中の水素結合は対称化していると報告された。しかしここ数年でいくつか報告された1H-NMRやX線回折による水素結合対称化圧力の値は、20-75 GPaと大きくばらついており、未だに研究者によって見解が分かれている。中性子回折は、水素の(時間・空間平均としての)位置分布を直接的にとらえることのできる手法であるが、このような超高圧下での中性子回折実験はこれまで困難であった。

発表者は数年前から100 GPaを超えるような圧力での中性子回折実験を行えるような技術開発を進めてきた。本発表では、MLF/J-PARCのPLANETビームラインでナノ多結晶ダイヤモンドアンビルセルを用いて撮影したice VII(またはX)の中性子回折の最近の結果を紹介し、観測したプロトン分布から水素結合の対称化圧力について議論する。

発表者:名和 大輝

Speaker:Hiroki Nawa

タイトル: 生体試料中のタンパク質と金属イオンの同時検出に向けて

Title: Simultaneous detection of proteins and metal ions in biological samples

アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病などに代表される神経変性疾患では、組織に不溶性の繊維状タンパク質がみられることが特徴的である。この不溶性タンパク質はペプチドやタンパク質が凝集してできるものであり、例えばアルツハイマー患者の脳にみられるアミロイド斑は、分子量約4000Daのアミロイドβ単量体が凝集してできたものである。

アミロイドβ凝集体や、凝集過程に生成する可溶性オリゴマーやプロトフィブリルは神経毒性をもつため、アルツハイマー病に関与していると考えられている。その一方で、アルツハイマー病患者の脳には通常より多くの銅、亜鉛、鉄、アルミニウムなどが含まれることから、金属イオンとアミロイドβの相互作用がアルツハイマー病発症に関与しているという仮説がある。しかしながら、脳という複雑系でアミロイドβと金属イオンの関係を直接示すことは困難である。

そこで本研究では、アミロイドβと金属イオンの関係を議論するために、LA-ICP-MSを用いて金属イオンとタンパク質を同時検出しイメージング分析する手法に注目した。本発表では、イメージング分析にLA-ICP-MSを用いる優位性や、タンパク質と金属イオンを同時検出するための手法開発の進捗について報告する。