2023年6月16日

Date: 16:00 – 18:00, Friday, June, 16, 2023

発表者:安田瑛生
Speaker: Akio Yasuda

タイトル:高圧条件下における核酸塩基と糖の反応性の考察
Title: Consideration of reactivity of nucleobases and saccharides under high pressure conditions

 核酸塩基・糖・リン酸が結合したヌクレオチドは生物の遺伝情報を担うDNAやRNAの基本構成単位であり、生体内のさまざまな代謝にも関与する成分である。原始地球においてこの物質がどのように初期合成されたかを解明することにより、生命の起源の手がかりが得られることが期待されている。
 また一般的に高圧条件下でいくつかの有機物の反応性が著しく進行しやすくなることが知られており、常温常圧下で進行しにくい反応について高圧条件下で多くの研究がなされている。先行研究によると常温常圧下でほとんど反応しないリン酸とメタノールについて、6 GPaの高圧条件下でエステル化反応が進行しdimethyl phosphateまで生成することが報告されている(Y Sun et al., 2018)。
 本研究ではヌクレオチド中の核酸塩基と糖のグリコシド結合に注目し、高圧下での反応性(塩基-糖結合種合成の可能性)について検証することを目的としている。核酸塩基と糖の二つの組み合わせの有機物について研究を行っており、一つ目の組み合わせとしては簡単なモデル化合物としてピリミジンとメタノールを取り扱った。二つ目の組み合わせとしては核酸塩基の簡単なモデル化合物としてプリンと、RNAを構成する糖としてリボースを扱った。
先行研究によると、酢酸とメタノールの反応について、1 GPa前後で反応物が結晶化しない(液体又はアモルファス)条件下でのみ反応が進行したという報告がされている(H Takahashi, 2017, Master’s thesis)。そのため現在の段階としては、ピリミジン-メタノール混合物、そしてプリン-リボース水溶液の二種類の混合物の高圧下での相転移についてラマン分光法による考察を行い、高圧下であるが結晶化しないような適当な混合比を探っている。
 今回の発表では、①ピリミジン-メタノール混合物の相転移についてのラマン分光法による考察(前回の発表の補足)、②プリン及びリボース水溶液の相転移についてのラマン分光法及びX線回折法による考察を紹介する。

発表者:赤荻正樹
Speaker:  Masaki Akaogi

タイトル「衝撃変成を受けた隕石中の高圧鉱物 -衝撃圧力・温度の推定-」
Title: High-pressure minerals in shocked meteorites: Estimates of shock P, T conditions

高温高圧実験によって合成された地球深部構成物質であるケイ酸塩高圧相は、天然では主に衝撃変成を受けた隕石中に発見されている。天体の高速衝突に伴う衝撃波による圧縮・加熱により、その構成鉱物の融解、相転移などが起こる。例えばリングウッダイトやブリジマナイトは衝撃変成を受けた隕石中に発見され、新鉱物として記載されて、それらの鉱物名が付けられた。一般に鉱物の高圧相平衡関係が実験的に決められていれば、それらの高圧相を含む隕石が受けた衝撃圧力・温度を制約することが可能である。しかし衝撃圧縮による高圧高温条件は極めて短時間に発生するため、相平衡実験の結果の適用には注意が必要であり、最近では衝撃によって生成したメルト中の高圧鉱物を使って衝撃圧力・温度を推定することが多い。今回の発表では、最初に隕石に見られる衝撃変成の特徴を述べ、次に発表者らが相関係を研究し、衝撃変成条件の推定に関わった、三種類の高圧鉱物について述べる。この内、NaAl3Si3O11成分に富む CAS相およびNaAlSi3O8成分に富むホランダイト相(鉱物名リングナイト)は、圧力が約22GPa付近、温度約2000-2200℃以上でメルトから結晶化したと考えられる。またFe2SiO4に富むスピネル型ケイ酸塩(アーレンサイト)は、新たに決め直したFe2SiO4の高圧分解反応の相関係に基づくと、10-15GPa付近の圧力下でFeO、SiO2に富むメルトから結晶化したと推定される。