Date: 16:00 – 18:00, Friday, July, 5, 2023
発表者: 岩野英樹
Speaker: Hideki Iwano
タイトル:鉱物分離法の現状とジルコンと黄鉄鉱の分離に向けての新たなチャレンジ
Title: The present state of mineral separation method and new challenge of zircon and pyrite isolation
地質年代測定や地球化学分析では、調査地域で採取された岩石試料から特定の造岩鉱物を分離する必要がある。鉱物分離は、地球科学を支える分野の一つであり、長い歴史を持つ。ひと昔前では、豊富な経験を持つ専門の技術者(いわゆる技官)によって行われてきたが、最近ではその数が減り、最近では学生自身が鉱物分離を行うことも珍しくない。その場合、大学や研究機関は、作業者の健康維持や安全を確保しつつ、鉱物分離技術やその質を保つために、機器や化学物質(有害物質を含む)の取り扱いに関する研修を行わなければならない。また、鉱物分離は一般的に、本分析のための面倒で手間のかかる準備段階と考えられており、5~10kgを超えるような大量の試料を処理する場合には時間とストレスがかかり、誰もが避けたい作業であった。その一方、近年の分析技術の進歩により、年代学・地球化学的分析に必要な試料量は劇的に減少した。今や多くの場合、大きな岩石試料からグラム単位の鉱物を分離する必要はなくなっている。そこで今回は、少量の岩石(~100g程度)に含まれるすべての鉱物を分離・回収することを目指して確立した著者らの方法を紹介する。その分離法の長所は以下の4つ:(1)経験の浅い学生でもできるほど簡単である、(2)容器や器具はすべてコンパクトで水洗いが可能である、(3)分離技術は水をベースにしたものであり、有害物質(発癌性のある重液)を使わない、(4)効率的で分離作業自体が楽しい、である。つい先日、世界の主要な地球科学研究機関であっても、こと鉱物分離に関しては旧態依然とした現状であることを知る機会があった。今後研究室を持って科学をリードする研究者になるであろう学生さんたちに鉱物分離の現状とその中の工夫を知っていただく場になればと考えた。
また、著者が長年ジルコン分離およびジルコン年代測定を行ってきた中で、目の敵にしてきた黄鉄鉱分離は30年来の課題として残っている。黄鉄鉱は、無磁性重鉱物フラクションとしてジルコンと混在するため、これまでは濃硝酸で溶解させることで、ジルコンの純化を行ってきている。しかしこの過程で有毒ガスを大量に発生させ、鉱物分離法としてエレガントではない。また、黄鉄鉱を必要とし、研究対象として分離・回収したい要望も持つ研究者がいることも事実で、ジルコンと黄鉄鉱を簡単かつ安全に分離する方法が必要であることを痛感している。今回のセミナー発表をきっかけに、ジルコン−黄鉄鉱分離技術開発を7/1にスタートさせた。このGCRCセミナーで予備実験結果も報告したい。