2023年12月15日

Date: 16:00 – 18:00, Friday, December, 15, 2023

発表者:佐藤美彩希
Speaker: Misaki Sato

タイトル:低温高圧下で出現する新規エタノール結晶相群の X 線構造解析
Title: X-ray structure analysis of new crystal phases of ethanol appearing at low temperatures and high pressures.

 エタノールは炭素二原子からなる一価のアルコールであり、ヒドロキシ基をもつことで分子間の水素結合を形成できる。エタノールの固体結晶相としては、常圧下157 K以下で出現する低温相(空間群P21/c、以下I相と呼ぶ)(Jönsson, 1995)と室温下1.9 GPa以上で出現する高圧相(空間群Pc、以下III相と呼ぶ)(Allan and Clark, 1999)の2つが知られている。しかし、低温相や高圧相の融点は詳しく調べられておらず、上記以外の温度圧力下における結晶相の探査も行われていなかった。これまででは、エタノールの融点を調べる過程で、低温相や高圧相とは異なる結晶である未知相が、I相とIII相の間の条件で複数個存在することを見出していた(小泉修士論文, 2014)(矢部卒業論文, 2021)。それらの未知相のうち、単位胞の大きさが、低温相であるI相のb軸をそれぞれ2, 3, 4, 5倍にした値に近いものが発見された(I2, I3, I4, I5と呼ぶことにする)。それらは低温相の構造から推定することができるが、I4相以外、低温高圧その場での単結晶X線回折による構造精密化は成功しておらず、その詳細な構造は明らかになっていなかった。また、それらの未知相の他にも、低温相や高圧相と全く異なる構造単位をもつ未知相(IV相と呼ぶ)も発見されていた(矢部卒業論文, 2021)。そこで本研究では、単結晶X線回折実験を用いた、エタノール未知相の一つであるI2相結晶構造の決定、先行研究で報告されていた温度圧力条件でその通りの未知相が作成できるのかの再現実験、また各未知相が存在する安定領域を探査することを目的として行なっている融点測定について、これらの結果を報告する。

発表者:チョウ ケイガ
Speaker : ZHAO XINYA

タイトル:メタロミクス研究に向けた誘電体バリア放電イオン源の開発  
Title : Development of Dielectric Barrier Discharge Ionization for Metallomics Research

 生体内には様々な生体分子や金属元素が存在し、それぞれが機能を担っています。金属元素の役割を通して生体機能を理解しようとする研究分野はメタロミクス(生体金属支援機能科学)とよばれ、この10年間で得られる情報の質と量は飛躍的に向上している。一方で、メタロミクス研究の急速な進歩に伴い、生体中における金属濃度・分布情報だけでは金属と生体分子の関連や金属元素の役割が明確にならず、金属元素と生体分子を同時に分析する必要性が高まってきた。

 レーザーアブレーション試料導入装置を組み合わせたICP-MSでは、主成分からppbレベルの微量金属元素の定量分析が可能である。その一方で、イオン源であるICPはガス温度(運動温度)が8000℃にもなるため、金属元素と相互作用する生体分子の情報(分子量・構造)は失われてしまっていた。そこで本研究では、レーザー試料導入法の結合が有機分子用ソフトイオン源の開発を行い、高分解能有機質量分析計を組み合わせることでアミノ酸等のイメージング分析を進めてきた。ここでは、誘電体バリア放電をイオン源に用い、ソフトなイオン化を実現しているが、それでもフラグメント化が完全に抑制できたわけではない。今後、さらに大きな分子の分析を行うにあたり、アミノ酸を参照物質として、誘電体バリア放電におけるフラグメント反応の様式化を目指すこととした。卒業研究を通じて多くの動物が利用するアミノ酸20種類に対してフラグメント化の様式を調べ、大学院ではペプチドを含めた大分子へと順次、大分子量のフラグメント化を定式化したい。本発表では、基礎的実験データとして、これまでに分析したアミノ酸から、フラグメント化に大きな影響を与える標的分子の気化過程(ヒーター温度)の影響を評価する。