2024年7月12日

Date: 16:00 – 18:00, Friday, July 12, 2024


講演者:青木 勝敏
Speaker: Katsutoshi AOKI

タイトル: 振動分光法による氷の水素結合対称化の研究
Title: Vibrational spectroscopic study of hydrogen bond symmetrization in ice

要旨:
氷は水分子が水素結合で結ばれた分子結晶である。 水素結合軸上には水素原子の平衡位置
すなわちポテンシャルの極小が2つあり、 それらは中央のエネルギー障壁によって隔たれ
ている。 高圧下では2つのポテンシャル極小が近づくとともにエネルギー障壁が低くなり
、 やがては1つのポテンシャル極小になる。 水素原子は酸素原子間の中点に位置する。こ
れが水素結合の対称化である。 氷の水素結合対称化は高圧科学の長年の課題の1つであっ
た。 低温では水素原子のトンネリングが主要な役割を担う転移であり、 転移機構に関す
る多くの理論研究が報告されていた。 1990年代に入り、第一原理分子動力学法による信
頼性に高い転移圧力49 GPaが予測されたのを機会に、赤外振動スペクトル測定による水素
結合対称化の観測を目指した実験に着手した。水素結合距離(酸素原子間距離)の減少に
伴い2極小ポテンシャルの曲率は減少し、その結果O-Hの伸縮振動数は減少する。水素結合
対称化は単一極小ポテンシャルへの変形を伴い、伸縮振動数は減少から増加に反転する。
赤外振動スペクトル測定によって対称化は明瞭に観測される、はずであった。が、実測さ
れたスペクトルには非調和性に起因した振動間の共鳴や干渉の影響が現れ、O-H伸縮振動
数の減少から増加への反転の確認は容易ではなかった。
セミナーでは100 GPa領域での赤外振動スペクトル測定に向けて開発した、FT-IR顕微
分光器+小型ダイヤモンドセルの光学システム、それを用いたスペクトル測定と共鳴・干
渉現象の解析、決定されたH2OとD2O氷の対称化転移圧力を紹介する[1]。
30年前の研究成果を報告するきっかけとなったのは6月末に中性子回折による対称化転
移観測の論文発表である[2]。多くの学生さんが生まれる前の古い研究の紹介なので気楽に
、楽しみながら聴いていただきたい。

[1]青木勝敏「超高圧下における氷の水素結合 “対称化”」日本物理学会誌54,257-
263(1999)。
[2] Kazuki Komatsu et al., “Hydrogen bond symmetrisation in D 2 O ice observed by neutron
diffraction” Nature Commun., 15, Article number: 5100 (2024).



講演者:藤田 了
Speaker: Satoru FUJITA

タイトル:多重検出器型ICP-MSを用いた白金ナノ粒子の測定
Title: Measurement of platinum nanoparticles using MC-ICP-MS

要旨:
鉄よりも軽い軽元素は核融合によって合成されるのに対し、鉄よりも重い重元素の多くはs-processやr-processといった中性子捕獲反応により合成される。s-processはAGB星、r-processは超新星爆発や中性子星合体などで起こる(Wanajo et al., 2014)と考えられているが、r-processによって得られる核種の合成量を推定するためには物質的証拠によるパラメータの制約が必要である。プレソーラー粒子は太陽系形成以前のnmサイズの微粒子であり(Amari et al., 1994)、プレソーラー粒子中の重元素を直接測定することによって重元素合成に関する情報を得ることができる。

本研究では多重検出器型ICP質量分析計(ICP-MS)によるプレソーラー粒子中のRe-Osの測定を目指すこととした。ICP-MSは大気圧高温プラズマをイオン源に用いた質量分析法で、重元素の高感度分析や高速な微粒子分析が可能である。また、多重検出器型ICP-MSを用いることで微粒子の同位体比分析を行うことができる。 前回の発表ではRe-Osの測定の前段階として白金ナノ粒子の標準試料を多重検出器型ICP-MSを用いて測定した結果について報告を行ったが、今回は主に白金試料溶液の濃度と粒径の分布の関係に着目し分析を行った結果について報告する。