2024年10月4日

Date: 16:00 – 18:00, Friday, October 4, 2024



講演者:沼田 翔伍
Speaker: Shogo NUMATA

タイトル:可搬式同位体分析装置を用いた火山性ガスの野外現地測定手法の開発

要旨:
現在の火山観測技術では観測機器を使って地震,地殻変動,重力,地磁気,空振などを捉える地球物理学的観測が広く行なわれている.これらの利点としては,観測機器を設置すれば連続的にデータを得ることができ,観測点の数を増やすことが容易であることが挙げられる(中道・青山, 2015).しかし,物理学的観測では,マグマの温度変化や発泡度の変化のような小規模な変動や,水蒸気噴火のようなマグマ自体が移動しない熱水系における温度圧力上昇現象を検出することが難しいという欠点がある.一方,火山の噴気や温泉の溶存ガス,土壌ガスなど,これら火山ガスに含まれる揮発性物を調べる地球化学的観測では,地球深部から上昇してくる流体を直接測定することで,先に挙げた欠点を補うことができる.火山ガスの化学組成は,マントルやマグマに由来する成分と,天水や生物に由来する成分の混合で決まり,揮発性物質の同位体比や元素比の変化を調べることでマグマの寄与率や,活動の変動度を捉えることができる.特に炭素とヘリウムの同位体比の変化はマグマ活動を示す良いトレーサーになり(例えばSano et al., 1984; Marty et al., 1989; Obase et al., 2022など),平常時から定期的に観測することで噴火の予兆現象を捉えることができる可能性がある.火山活動監視手法としては.地球物理学的観測と合わせた化学的観測が有効である.ただし,得られた同位体比の変化が噴火の前兆となるマグマからの脱ガス・火山活動の活発化に由来する変化であるか,地殻変動や定常的な熱水活動に由来するのかは,1つの元素の同位体比だけで区別することは困難な場合があり,同一試料に対して複数の元素の同位体比を測定することが望ましい.そこで本研究では,野外現地において,火山ガス中の炭素同位体(13C/12C)比及びヘリウム同位体(3He/4He)比の測定を可能にする可搬式の同位体分析装置を開発し,時間・空間分解能の高いデータを得られるようにすることで,数日から数週間のタイムスケールでの近未来噴火予測や,局所的なマグマ活動把握の実現を目指す.

本研究は大まかに以下の3項目に分けられる.

1. 炭素同位体比を測定する同位体比赤外分光計(IRIS, Delta Ray/Thermo Fisher Scientific)を,火山ガス測定用に最適化し,野外での運用方法の確立する.

2. ヘリウム同位体測定用のマルチターン飛行時間型質量分析計(MULTUM-S II, infiTOF / MSI. TOKYO, カノマックスアナリティカル株式会社)を用いて,野外での運用方法の確立と,実際の試料ガスを使った測定実験及び測定手法の確立する.

3. 火山ガス試料からヘリウムだけを効率的に分離・抽出するための試料導入系の確立.本研究ではBajo et al. (2012)で報告されている石英ガラスを利用したヘリウム抽出の手法をもとに,infiTOFで使用する場合に最適化した条件を探す.



講演者:名和 大輝
Speaker: Hiroki NAWA

タイトル:LA-ICP-MSを用いたタンパク質と金属の同時分析
Title: Simultaneous detection of proteins and metals using LA-ICP-MS

要旨:
 生命活動の維持には遺伝子やたんぱく質などの生体分子の働きが重要である。多くの生体分子の機能の発現には金属元素の働きが必要であり、生命現象における金属の役割を総合的に理解しようとする学問分野をメタロミクスと呼ぶ。金属元素の代謝やタンパク質との関わりを理解することは、生命活動や病理メカニズムの解明のための重要な課題である。
 イメージング分析は、試料中の元素や分子の分布を可視化する分析手法であり、空間的・局所的な位置情報の取得が可能な分析法である。そういった位置情報を得ることで、金属元素の役割や、金属とタンパク質の関わりを議論することができる。
 Laser ablation-ICP-mass spectrometry (LA-ICP-MS) を用いたイメージング分析法は、ppt~ppbレベルの微量金属元素を多重検出することができる分析法である。また、レーザー走査の高速性、高い試料導入効率、ICPによる高いイオン化効率といった特性から、生体組織などの比較的大きな試料中の微量金属元素を短時間で分析できるといったメリットがある。しかしながら、タンパク質などの分子は、強力なプラズマにより原子化されてしまうため、直接的な分析はできない。そこで本研究では、免疫組織化学 (Immunohistochenistry; IHC) の技術を用いて、タンパク質を間接的に検出する手法に注目した。
 IHCは抗体が特定のタンパク質を認識し結合する抗原抗体反応に基づいている。金属などを標識した抗体を抗原抗体反応を用いて目的タンパク質に反応させ、LA-ICP-MSを用いて標識した金属を検出することで、目的タンパク質を間接的に検出することができる。先行研究では、金属標識抗体やナノ標識抗体が用いられていたが、それぞれ感度が低いことやナノ粒子が非特異的に吸着してしまうといった課題があった。
 そこで本研究では、非特異的吸着を抑えた金ナノ標識抗体を合成を行い、合成した試料を用いてマウスの脳切片中の金属とタンパク質を同時検出することを目的とした。本発表では金ナノ標識抗体を用いて得られたタンパク質のイメージングの結果について報告する。また、抗原抗体反応の過程における元素分布への影響について議論する。