2025年1月10日

Date: 16:00-18:00, Friday, January 10, 2025



講演者:末冨 百代
Speaker: Momoyo SUETOMI

タイトル:近赤外および赤外吸収分光法を用いた天然の水試料中の塩分および炭酸塩成分の迅速分析手法の開発
Title: Development of rapid analytical methods for salinity and carbonate components in natural water samples using near-infrared and infrared absorption spectroscopy

要旨:
本研究は、海水、温泉水、流体包有物などの塩分と炭酸種を含む溶液を対象として、天然試料中の塩分濃度と炭酸塩成分(CO₂、HCO₃⁻、CO₃²⁻)を迅速かつ正確に分析する、新たな手法を開発することを目的としている。従来の方法では、塩分濃度と炭酸塩成分の測定が独立して行われており、炭酸塩成分の測定には炭酸塩平衡を考慮した複雑な手順が必要だった。これに対し、本研究では近赤外および赤外吸収分光法を用いて、炭酸塩平衡に依存せずに炭酸塩成分の溶存濃度を測定し、同時に塩分濃度もリアルタイムで測定できる手法を開発することを目指している。

特に海水試料は、大気中の二酸化炭素濃度が年々増加している現状を考えると、重要な研究対象である。2024年11月の大気中二酸化炭素平均濃度は423.85 ppmと、2023年11月の420.46 ppmからさらに上昇しており、この増加は地球温暖化だけでなく、海洋酸性化を引き起こしている。海洋酸性化は、プランクトンやサンゴなどの海洋生物に深刻な影響を及ぼし、海洋生態系全体のバランスを崩す恐れがある。IPCCの報告によれば、表層海水には900 Gt、海洋全体には38000 Gtもの炭素が二酸化炭素として溶け込んでおり、海洋は地球表層における最大の二酸化炭素リザーバーである。海水中の二酸化炭素は、溶存二酸化炭素(CO₂(aq))、重炭酸イオン(HCO₃⁻)、炭酸イオン(CO₃²⁻)の3つの形態で存在し、その濃度は塩濃度やpHなどの要因に依存して変化する。このため、今後の気候変動の影響を正確に予測するためには、海水中の塩濃度および3つの炭酸塩成分の濃度を精密に測定する必要がある。

手法としては、FTIR(フーリエ変換赤外分光計)を使用し、1200–1500 cm⁻¹の波数領域のピーク強度と炭酸塩成分濃度、4600–5400 cm⁻¹の波数領域のピーク強度と塩分濃度の相関を実験室での試料を作成、測定により解析する。このデータを基に、小型FTIR装置を活用して、海水などの天然サンプルを現場で測定する計画である。


本発表では、初期段階における手法開発の詳細とその成果について説明する。