Date: 16:00-18:00, Friday, January 17, 2024
講演者:平田 岳史
Speaker: Takafumi HIRATA
タイトル:2024年に質量分析技術に革命は起きたか?
Title: What are the major breakthrough in the mass spectrometry technique for year of 2024?
要旨:
質量分析計は分光法ではない。鍵先生が修士過程学生であった頃に私に投げかけた尊い言葉である(*注)。鍵先生の主旨は、質量スペクトルは横軸が質量であり、標的成分(原子やイオン)の重さという“固有”の情報を活用しているにすぎず、化学形態や化学結合に関する情報が得られないため、である(間違っていたらごめんなさい)。無機質量分析計で元素同位体分析(年代分析)を行っていたため、化学形態に関する情報が得られなくとも、様々な成分が集合したイオンビームから標的同位体を選別し、その強度(スペクトルの縦軸)を測定するのだから、質量分析法も分光法の一種とみなせると当時の私は考えていた。しかし「質量分析法は分光法か」という問いかけは今でも心の中で繰り返しよみがえっており、結果的には質量分析法の理想・開発動向を考える上で大きな道標になっている。
我々の研究グループでは、主として質量スペクトルの縦軸(イオン信号の強さ)を利用して標的成分の濃度や、同位体組成に関する情報を引き出してきた。信号強度の1万分の1の変化を捉えるための新規イオン検出器の開発を行い、世界最高精度・最高速度での年代分析を実現し、研究支援を続けて来た。一方で質量分析法を「分光法」たらしめるためお開発にも取り組んでいる。最近では高分子化合物に対する質量スペクトル解析技術は飛躍的に進歩し、原理的には質量分析法を用いることでアミノ酸・塩基配列や高次構造に関する知見を引き出すことも可能となっている。さらに同一質量のイオンでも、形状の異なるイオンを分離検出する技術も実用化されており、生体分子解析の重要な手法となっている。我々の研究グループは、現時点では生体分子の構造解析には取り組んでいないものの、金属元素と生体分子を一度に同時にイメージング分析する手法の開発を進めており、金属元素の化学形態や金属–生体分子の化学結合に関する情報を引き出すことができるようになってきた。
こうした最先端質量分析を支えるのがソフトイオン化技術である。ソフトイオン化では、標的成分(分子あるいは錯体)を破壊することなく電荷を付与し、標的成分を質量分析する。ソフトイオン源としては、現時点ではMALDIやESIなどが有名であり、様々な分析局面で広く活用されており、その重要性や波及効果の大きさを端的に表している(いずれも2002年にノーベル化学賞が授与されている)。一方で、ソフトイオン源(先に述べたMALDIやESI、に加えDBDI、FAB等)の多くは弱い条件下でのイオン化過程であるため、定量性が低いことが問題となっている。例えば標的成分から得られるイオン信号は、夾雑物の種類や量により大きく異なるため、イオン信号の強さと存在量は必ずしも比例しないことが分かっている。さらにソフトイオン化では、わずかに起こる開裂反応(フラグメンテーション)や多価イオン(分子によってはz=4〜6のイオンが生成される)生成の影響で、得られる質量スペクトルは複雑になり、生体試料のように複雑な分子混合物から、微量の標的分子を検出することは簡単なことではない。ソフトにイオン化し、定量性を担保することは、様々なソフトイオン源に共通して存在する問題点である。
そこで大切となるのが選択的イオン化である。標的成分のみを選択的にイオン化することができれば、開裂反応や夾雑物イオンの影響を大幅に低減できるはずである。こうした考え方から、私達の研究グループでは、選択的かつソフトなイオン源としての化学イオン化(Chemical Ionisation:CI)法の開発に取り組んでいる。これまで実用化された多くのソフトイオン源が、物理的なプロセス(電子衝撃、イオン衝撃、蒸発過程での電荷交換反応等)を用いているのに対し、CI法では化学反応性・化学的特性を活用するため、選択性と定量性を高める上で化学の知識が活用できるという大きなメリットがある。本発表では、2024年に私達が新たに実用化したCI法を紹介するとともに、本年度の研究計画を紹介したいと思う。
こうした研究開発を通じて、鍵先生が質量分析法は分光法であると認知してくれるかどうか。我々は「後ずさりしながら未来に入っていく(reculons à l’avenir):ポール・ヴァレリー」を認識しつつ、執拗に前進・挑戦したい。
注:念のために鍵先生に確認したところ、全く覚えていないとのことでした。
講演者:小林 大輝
Speaker: Hiroki KOBAYASHI
Title: Negative linear compressibility in a hydrogen-bonded material
Abstract:
Thermodynamics inculcate that any system reduces its volume in response to hydrostatic pressure. Conversely, solids are able to expand in one or two directions when simultaneous densification is achievable. We discovered negative linear compressibility (NLC) in a hydrogen-bonded molecular crystal. In this presentation, the mechanism of this NLC will be reported based on in-situ x-ray diffraction measurements.