2016年6月30日

Date: 16:00-18:00, Friday, 30 June 2017

Place: 5F, Conference room, Main Chemistry Build.

Speaker:Kenta Ueki(Center for High Energy gEophysics Research Earthquake Research Institute, University of Tokyo)

日 時:2017年6月30日(金)16:00~18:00

場 所: 化学本館5階会議室

講演者:上木 賢太(東京大学地震研究所 高エネルギー素粒子地球物理学研究センター)

タイトル: コアマントル地球ニュートリノ観測に向けた、確率密度分布による岩石化学組成のモデル化

Title: Stochastic Modeling of geochemical data for core-mantle geo-neutrino observation

要旨: 岐阜県神岡に設置されているニュートリノ検出器KamLANDを用いて、地球内部のウラン・トリウム崩壊により生成される反ニュートリノを観測することが出来る。我々の目的は、KamLANDで得られる地球ニュートリノデータを用いて、核-マントルに含まれるウラン・トリウムの量を世界最高精度で決定することである。そのためにはまず、日本列島の地殻に含まれるウラン・トリウム量と空間分布を、不定性付き・バイアス無しの方法で見積もる必要がある。その目的のために我々は、地震学と地球化学を統合した学際的な研究を行い、日本島弧地殻の岩相分布・ウラントリウム分布の推定を行っている。  本研究では、岩石化学組成のモデル化のために、約100の論文や報告書のデータからなる、日本列島を構成する岩石の化学組成データベースを構築した。さらに、特にデータ数が少ない下部地殻起源の岩石に関して、日本列島で採取された下部地殻捕獲岩の分析を行った。コンパイルされた組成データを用いて、不定性を考慮した地殻のU-Th分布、そして地殻からのニュートリノフラックスを見積もるために、確率分布を用いたモデル化を行った。先行研究では一般的に対数正規分布や正規分布が広く適用されてきたが、組成をモデル化するための確率分布として、本研究では新たに、“ガンマ分布”を用いた。ガンマ分布は、形状パラメーターkとスケールパラメーターθからなる、2パラメーターの連続確率分布である。マイナスの値を持たない、対称及び非対称両方の分布に対応可能である、パラメーター推定に用いた標本の平均を保存するという利点がある。ガンマ分布のパラメーター推定に関しては、検出限界を考慮した新たな最尤推定の方法を開発し、適用し、確率密度分布として岩石化学組成のモデル化を行った。  ガンマ分布のパラメーターkは、分布の形状を表す。岩種毎に形状パラメーターを比較した結果、形状パラメーター、すなわち分布の形状が、岩石の分化の程度を表していることが分かった。岩石の化学組成を確率密度分布として捉えることで、データの分布の形状やデータの頻度も考慮することができる。このような取り扱いを行えば、たかだか数元素だけを用いただけでも、岩石の化学プロセスの情報を抽出することが出来ることが本研究によって示された。本講演では、このガンマ分布の例に加えて、その他の情報化学的手法を用いた岩石化学組成の解析例についても紹介する。