2017年12月22日

Date: 16.00-18.00, Friday, 22 December 2017
Place: 3F, Lecture room, Main Chemistry Build.
Speaker1:Shuya Takahashi
Speaker2:Ko Fukuyama

日 時:2017年12月22日(金)16:00~18:00
場 所: 化学本館3階講義室
講演者1:高橋修也
講演者2:福山 鴻

講演者1:高橋修也(Shuya Takahashi)
タイトル:エステル化反応の室温高圧条件下における挙動および共存する高圧氷の影
響の観察
Title: Observation of the behavior of esterification reaction under high
pressure and
room temperature condition and the effect of coexisting high-pressure ice

一部の液相有機反応は、高圧条件下(~数GPa)で大きく加速されることが知られて
いる。カルボン酸とアルコールからエステルと水が生成するエステル化反応について
は、これまで高温条件では加圧により反応速度が増加することが報告されている。し
かしながら、室温付近の条件において、高圧下での反応速度及び平衡定数の変化や反
応系の相関係についてはこれまで明らかになっていない。カルボン酸やアルコールは
宇宙にも広く存在し、またエステルは生体関連物質である油脂やリン脂質に含まれる
ことから、これらを明らかにすることは化学進化の新たな場を提案することにもつな
がると考える。本研究では、(1)室温条件における高圧下エステル化反応及び相状態
の追跡をその場観察を用いて行い、さらに(2)高圧氷とエステル化反応との相互作用
を調べることで、氷天体のような自然環境における有機反応の振舞いを総合的に理解
することを目的とした。
出発物質には酢酸とメタノールを用い、これらを様々な割合で混合したものをダイヤ
モンドアンビルセルにより0.7-3 GPaまで加圧した。X線回折とラマン分光を用いて
分析を行ったところ、室温でも反応が加速されるが平衡定数は圧力によって変化しな
いこと、及びその際に反応系が結晶化していない必要があることがわかった。さらに
出発物質に水を混合して加圧したところ、液相の酢酸-メタノール系と高圧氷(ice
VII)
を共存させることに成功した。そしてこのような環境では、エステル化反応の平衡が
完全に生成側にシフトすることが明らかとなった。本セミナーでは、実験結果の報告
とそこから提案される新たな有機反応のプロセスについて議論を行う。

講演者2:福山 鴻(Ko Fukuyama)
タイトル: 高温高圧下における下部マントル主要鉱物への窒素の取り込み
     ~地球深部における窒素の貯蔵・輸送~
Title: Incorporation of nitrogen into the lower-mantle minerals under high pressure and high temperature
    ~Transportation and storage of nitrogen in the deep earth~

要旨
 窒素は地球大気の約8割を占め、生命の必須元素であることから、初期地球進化過程や地球の生命起源を議論するうえで、極めて重要な揮発性元素である。しかし依然として地球内部における窒素の挙動については詳しく分かっていない。例えば、コンドライトモデルから推定される地球内部の窒素量(McDonough, 1995)に対して、天然試料分析から見積もられる地球内部の窒素量は、他の揮発性元素の1/10未満であることが知られている(Marty, 2012)。これは“Missing nitrogen problem”と呼ばれ、地球科学的に取り組むべき重要な課題となっている。この原因として、マグマオーシャンを経ることにより、上部マントルに窒素が貯蔵されている可能性(e.g. Li et al., 2013)が示唆されてきた。しかし、地球内部における窒素の貯蔵を議論する場合、地球で最も容量が大きい下部マントルでの窒素の貯蔵に関する先行研究は十分でなく、Yoshioka et al. (2016, Goldschmidt Conf.)のみとなっている。そこで本研究は、下部マントルの主要鉱物であるbridgmanite, periclaseそして stishoviteに窒素がどれほど取り込まれるか高温高圧実験による検討を行った。実験には愛媛大学GRCのマルチアンビル高圧発生装置を使用し、窒素の検出には大気海洋研究所のNanoSIMSを使用した。
 下部マントル条件から急冷回収した試料において、固相にはbridgmanite, stishovite, およびpericlase、液相にはMgOに富んだリキッドが生成物として共存していた。一連の実験結果から、bridgmaniteよりも、stishovite, periclaseの方が相対的に多くの窒素を取り込みうることが分かった。このことから、下部マントルの主要鉱物であるpericlaseが窒素の貯蔵庫となっている可能性がある。また本研究から、沈み込むスラブにより、下部マントルまで運ばれるSiに富んだ海洋地殻の堆積岩層が高圧相転移してできるstishoviteにも、多くの窒素が取り込まれることが示唆された。このことから、プレートテクトニクスが始まった約40億年前から、沈み込み帯において窒素が下部マントルへ供給され続け、下部マントルにおける窒素の貯蔵庫を形成する可能性がある。