2018年5月25日

日 時:2018年5月25日(金)16:00~18:00
場 所: 化学本館3階講義室
講演者:山根 崚 (Ryo Yamane)

Title: Electric properties of ice VII above 10 GPa
タイトル:(10 GPa以上での氷VII相の電気的性質)

氷は、酸素原子と水素原子からなる水分子でできた結晶である。水分子は、比較的大きな電気双極子モーメントを有し、また水素原子はその小ささから結晶内における移動度が他の原子拡散に比較してきわめて高い。この二つの特徴から、氷は特徴的な誘電的性質・電気伝導度を有することが知られている。
特に、10 GPa以上の高圧氷(氷VII相)の電気的性質に関連して1000 K以上の高温領域における超イオン伝導状態の報告(Sugimura et al., 2012)、0 K付近における量子揺らぎ起因の無秩序状態の凍結が示唆されている(Pruzan 2003)。
以上のように、高圧氷は低温、高温領域でそれぞれ量子臨界状態の物理、惑星物質科学的観点から興味が持たれる。
氷の電気的特徴は、他の結晶、鉱物と同様に完全結晶からのずれである欠陥のダイナミクスと深い関連がある。氷の電気的特徴を担う欠陥は、点欠陥であるイオン欠陥とD,L欠陥と呼ばれる2種類に大別される。イオン欠陥は、H2O分子に一つのH+が余剰もしくは不足している状態である。D,L欠陥は、通常一つの水素原子によって共有・水素結合で結びつけられている酸素原子間に2つもしくは、水素原子が存在しない状態である。
岡田らは、室温2-40 GPaの範囲でDACによる電気伝導度測定を行い10 GPa付近に極大を持つような電気伝導度の圧力依存性を報告している。二つの欠陥種による電気伝導度の圧力依存性の違いから説明されたが、岡田らの測定結果は2-3 GPaの低圧領域においてDACを用いた測定よりも原理上確度、精度ともに高いピストンシリンダーによる結果と整合的でない(誘電的性質において)。10 GPa付近では、X線回折、分光学的測定からも測定値の異常が報告されており、この圧力領域の電気的性質をより正しく理解することは、さらなる高圧領域での氷の電気的性質を理解するうえでも非常に重要な研究であり、追試も含めて再検討する必要がある。
当日は、10 GPa以上の高圧領域での電気的測定技術の開発を含めた最新の測定結果を発表する予定である。