2018年5月18日

Date: 16:00-18:00, Friday, 18 May 2018
Place: 3F, Lecture room, Main Chemistry Build.

日 時:2018年5月18日(金)16:00~18:00
場 所:化学本館3階講義室
講演者:山本康太、クーフィーシン

講演者1:山本康太(平田研D1)
タイトル: 南極微隕石中の可溶性有機物の分析研究
Title: New Analyses of Soluble Organic Matter in Antarctic Micrometeorites
要旨:
地球への年間効果量が隕石の10倍以上と推定されている微隕石は、前駆生命物質の主要な供給源であった可能性がある。本研究では、脱離エレクトロスプレーイオン化オービトラップ質量分析計を南極微隕石に初めて適用した。検出されたイオンの種類数は、顕微フーリエ変換赤外分光法および顕微ラマン分光法が示す熱変成度に基づく予想よりも少なかった。溶媒のメタノールに可溶な極性化合物は、微隕石の濾過回収時に洗い流された可能性がある。このことは、濾過に替わる南極微隕石の回収方法の必要性を指摘する。例えば、凍結乾燥による回収によって、より多様で豊富な化合物が検出されると期待される。

講演者2:クーフィーシン(平田研M1)
タイトル: カマン・カレホユック遺跡出土クリーム色土器の製法について
Title: The Production Technique of Cream Ware from Kaman-Kalehöyük
要旨:
【序】カマン・カレホユック遺跡では前期青銅器時代(B.C. 3000–2000)から鉄器時代(B.C. 1200–400)にかけてクリーム色土器の出土が確認されている。本研究室はこれまで前期青銅器時代のクリーム色土器について化学組成分析、中・後期青銅器時代のものについて重鉱物組成分析による産地推定を行い、本遺跡においてクリーム色土器が生産されていたことを明らかにしてきた。しかし、その特徴的なクリーム色を生み出す製法に関しては未だ解明されていない。そこで本研究では、本遺跡出土の中・後期青銅器時代と鉄器時代のクリーム色土器の製作技法の解明を目指し、粉末X線回折(XRD)や走査型電子顕微鏡(SEM-EDS)等を用いた理化学分析を行い、焼成温度等の推定を試みた。
【方法】本研究で対象とした試料は、本遺跡の中・後期青銅器時代から鉄器時代に出土したクリーム色土器計51点である。これらのうち33点については、重鉱物組成分析によってその産地が推定されている。まず、土器表面にスリップが存在するかを確認するため、光学顕微鏡による高倍率の形態観察を行った。さらにXRDを用いて含有鉱物の相同定と、SEM-EDSによる土器の胎土の組織の状態や化学組成の定量から、焼成温度の推定を試みた。
【結果と考察】光学顕微鏡観察の結果、一部の土器の表面で薄い層の存在が観察されたことにより、一部のクリーム色土器にはスリップが施されていたことが確認された。さらに、中・後期青銅器時代および鉄器時代の各試料から、表面と胎土がどちらもクリーム色のもの(Fig.1)と、表面はクリーム色であるが胎土は赤色または灰色(Fig.2)のものを1点ずつ、計4点を選択し、XRDとSEM–EDSによる分析を行った。XRDを用いて土器胎土に含まれる鉱物の相同定を行った結果、全体的にクリーム色を呈する試料では石英(SiO2)、斜長石(曹長石:NaAlSi3O8と灰長石:CaAl2Si2O8)、カリ長石(微斜長石:KAlSi3O8)、ゲーレン石(Ca2Al(AlSi)O7)、透輝石(CaMgSi2O6)、方解石(CaCO3)等が同定された。一方、表面と胎土とで色が異なる試料においては、石英(SiO2)、斜長石(曹長石と灰長石)、カリ長石(正長石と微斜長石)、透輝石、赤鉄鉱(Fe2O3)等の鉱物を同定した。粘土中に含まれる正長石は900℃以上で分解すること、さらにゲーレン石や灰長石は800℃以上で生成することが知られている。このことにより、中・後期青銅器時代の土器は800~900℃、鉄器時代の土器は900℃以上という温度で焼成された傾向があった。また、全体的がクリーム色となっている土器は透輝石とゲーレン石、表面と胎土の色が異なる土器では表面のみが透輝石含まれていることが判明したことより、クリーム色の起源が透輝石とゲーレン石である可能性が高い。焼成温度の違いは土器断面の微細な組織状態にも影響を与える。そこでSEM-EDSによって胎土の組織状態を観察した結果、XRDの結果を支持する情報が得られた。さらに胎土部分の化学組成を算出した結果、全体的にクリーム色を呈するクリーム色土器と、表面と胎土で色が異なるクリーム色土器とで、石灰(CaO)の含有量に差が見られた。前者ではCaOの含有量が10 wt%(質量パーセント)以上となり、石灰分を多く含む粘土が使われたことが分かった。一方、後者ではCaOの量が10 wt%以下となり、石灰含有量の異なる粘土が使われていたことが明らかとなった。以上の結果により、中・後期青銅器時代および鉄器時代のクリーム色土器は800℃以上の焼成温度かつ含有量が高いCaの粘土によって製作されたと結論付けた。