2020年12月4日

Date: 16:00 – 18:00, Friday, December 4, 2020

日時: 2020年12月4日(金)16:00 – 18:00

講演者: 仁木創太

Speaker: Sota Niki

タイトル: fsLA-TQ-ICP-MSを用いた燐灰石Lu-Hf年代測定法の高確度化: Lu(NH3)3(NH2)NH+生成率の補正

燐灰石は様々な産状に見られる鉱物であり、変成岩や苦鉄質岩にも含まれる。それらの岩石から年代情報を抽出するうえで燐灰石の年代測定は重要である。燐灰石の放射年代測定にはルテチウム-ハフニウム(Lu-Hf)年代測定法、ウラン-トリウム-鉛(U-Th-Pb)年代測定法、フィッショントラック法、U-Th-Sm/He法が用いられる。これらの年代測定法を組み合わせたマルチクロノロジー研究の展開が期待されている。

 本研究では燐灰石に適用可能なLu-Hf年代測定法着目する。Lu-Hf年代測定法は176Luから176Hfへのβ壊変を利用した年代測定法である。燐灰石のLu-Hf年代系の閉鎖温度は700℃以上と高く、燐灰石の他の年代系と比較して最も高い閉鎖温度を持っている。そのため結晶化時の年代情報を保存している蓋然性が高いと考えられる。さらに燐灰石-メルト間の分配係数はPbとUが同程度であるのに対して、LuとHfは2桁程度異なり(Prowatke and Klemme, 2006)、Lu-Hf年代測定において結晶化時に取り込むHfの寄与は小さく年代値の計算に伴う誤差は小さい。

 しかし、次に述べる質量スペクトル干渉の存在により、これまで局所分析法によるLu-Hf年代測定の報告はない。鉱物試料中には放射壊変由来の微量な176Hfと比較して176Hfに質量スペクトル上で干渉する176Luや176Ybは数十倍以上存在する。したがって従来Lu-Hf年代測定法には試料を溶液化し、元素分離を行う必要があった。本研究では試料の溶液化を行わず、トリプル四重極型質量分析法のコリジョン/リアクションセル技術を利用し、Lu-Hf年代測定に挑戦する。本研究ではリアクションガスとしてNH3を用いる。Hf+はアンモニアガスと高い反応性を示してアンモニアクラスターイオン(Hf(NH3)3(NH2)NH+など)を形成する一方、Lu+やYb+はほとんど反応せず、Hf(NH3)3(NH2)NH+を測定することで質量スペクトル干渉を低減し測定することが可能となる。前回の発表では130 Maの燐灰石試料に対して100 Myr以上古い年代値が得られた結果を紹介した。本発表では、その年代値の偏差の原因をLu(NH3)3(NH2)NH+の質量スペクトル干渉であると特定し、その干渉の寄与を補正した年代測定結果を紹介する。

講演者: 趙政皓

Speaker:  ZhengHao Zhao

Title:  Pressure-Induced Spin Transition of Cobalt Octahedral Complexes

スピン転移は、圧力・温度・光などで誘起する、金属錯体におけるスピン状態の変化である。主にd4からd7までの電子配置を持つ八面体錯体に観察される。スピン状態が変化すると、d電子に関わる光学・電磁学的な性質だけでなく、錯体の結合長なども大きく変化することが多い。そのため、特に結晶水がある結晶では、スピン転移によって水素結合が変化する可能性が大きくて、結晶構造が相応に変化するのも考えられる。コバルトイオンのスピン状態がコバルト化合物の性質と関連するが、今までの研究は主に大きな有機配位子をもつコバルト錯体を研究していて、天然コバルト化合物のスピン転移に関する研究が少ない。本研究では、コバルトの八面体錯体を有し、自然界にも存在するCoSO4·6H2O結晶体のスピン転移を主な研究対象として、そのスピン転移による性質と構造の変化を明らかにすることを目的にする。私たちの研究ではすでにCoSO4·6H2Oの高圧相を確認しているが、その構造や性質などが不明な部分がまだ多い。今回は、この半年で行ったCoSO4·6H2Oの高圧挙動に関する実験とその分析・議論について発表する。