2021年10月29日

Date: 16:00 – 18:00, Friday, October 29, 2021 

講演者:赤宗 舞

Speaker: Mai Akamune

タイトル : 液中レーザーアブレーション法によるナノ粒子の抽出

Title: Extraction of nanoparticles by the laser ablation in liquid

元素はそれぞれが異なる元素合成過程を持っており、そのうち軽元素(原子番号が鉄までの元素)に関しては合成過程について明らかになってきている。また、重元素(原子番号が鉄以降の元素)の多くはs過程とr過程によって合成されたと考えられている(Burbidge et al., 1957)。それぞれの合成環境に関しては、s過程に関してはAGB星であったことが分かっているが、r過程に関しては超新星爆発や中性子星合体が候補としてあがっているものの、計算上では現在の太陽系の存在量を作り出すことはできておらず、物質的な証拠による制約が必要である。こうした元素合成環境を制約する物質的証拠の一つにプレソーラーグレインが考えられている。

プレソーラーグレインは、原始太陽系星雲で蒸発や凝縮による元素の混合・均質化を免れた粒子であり、その同位体組成から元素の形成環境を制約することができる(Zinner 1987)。また、プレソーラーグレインはそれぞれ別の起源に関する同位体情報を保持していると考えられており、それぞれの起源に関する同位体情報を取り出すためには、1粒子毎の化学組成・同位体組成情報を得ることが必要である。

隕石から粒子を抽出する方法としては、酸分解による方法が主に用いられている(Amari et al., 1994)。この方法は、マトリックスを排除した分析が可能であるが、膨大な時間が必要となり、また酸分解を行うことから表面の化学状態が変化する可能性が示唆されている(Tizard et al., 2005)。そこで、化学的処理が不必要である液中レーザーアブレーション(LAL)法を用いてプレソーラーグレインを抽出することを考えている。

こうした背景から、本研究ではLAL法を用いることで隕石中からプレソーラーグレインを抽出し、ICP-MSを用いて隕石中の重元素を測定することで重元素の元素合成過程に制約を加えることを目指す。

LAL法は他の抽出方法と比較して、耐酸性の粒子も抽出可能であるという点で優れている。一方で、LAL法を用いた粒子の合成においてはLAL粒子の動作条件によって凝集や破砕が起きるという問題がある(e.g.,Elsayed et al., 2013)。従って、LAL法を用いてプレソーラーグレインを抽出する場合にも同様の問題が起きることが考えられる。

そこで本実験では、まずナノ粒子を破砕させることなく抽出するLAL動作条件の検討を行った。また、その条件でナノ粒子を単離して抽出することができているかどうかの確認も行った。試料としては、隕石を模擬した標準岩石試料(JB1a)に粒径既知の白金ナノ粒子懸濁液(粒径70 ± 4 nm)を添加して樹脂で固めた物を使用して分析を行った。

LALにはNd;YAGレーザー(CryLas社製FQSS266-Q4)を、測定には磁場型ICP-MS(Nu Instruments社製Nu AttoM)と飛行時間型ICP-MS(TOFWERK社製 icpTOF R)用いた。本発表では、実験結果とその考察について紹介する。

講演者:伊藤 颯

Speaker: Hayate Ito

タイトル: Topological analysis of HDA-group amorphous ice

Title:HDA族のアモルファス氷のトポロジー的解析

氷のアモルファス固体には低密度アモルファス氷(LDA)と高密度アモルファス固体(HDA)が存在してこれらは圧力に対して一次相転移的な挙動をすることがわかっている。これらがもし別のアモルファス相であるとすると、これらに対応する高温での二つの液体の水(LDLとHDL)の存在と、液液臨界点の存在が予想される(第二臨界点仮説)。この第二臨界点仮説が正しいとすると水の様々な異常な物性を説明することができるが、現在のところこの第二臨界点を実験的に直接観測した例は存在しない。このことからでアモルファス氷の構造を調べることは水の性質を調べるうえでとても重要な意味をもっている。

HDAは実験的には氷Ihを低温で1GPa以上へと加圧することによって得られる。HDAは例えば0.8 GPaでゆっくり(1 K/min以下)で加熱すると氷IVに、素早く(25 K/min以上)で加熱すると氷XIIに相転移するなど温度圧力条件によって様々な結晶相へと相転移することが知られている。このことを考えるとHDAのなかでも温度圧力条件によって行動的な特徴の違いが存在しているはずである。

本研究ではVHDAと呼ばれるアモルファス氷とeHDAと呼ばれるアモルファス氷の間の違いを調べた。VHDAとはHDAを0.8 GPa以上で160 K まで加圧して得られるアモルファス氷のことであり、HDAよりも10%ほど密度が高い。eHDAとは0.2 GPa付近でHDAを140 K付近まで加熱して得られるアモルファス氷のことであり、VHDAを140 Kで減圧するとeHDAへと変化することが知られている。これらの間には動径分布関数や密度の圧力に対する変化傾向の違いなどが知られている。そこで、分子動力学計算を用いた計算機シミュレーションからHDA、eHDA,VHDAなど様々なHDAの仲間のアモルファス氷を作成し、それらに対してトポロジー解析をおこなうことによってHDAの構造的な特徴を抽出していくことを本研究の目標とした。