2021年12月17日

Date: 16:00 – 18:00, Friday, December 17, 2021 

発表者:小林大輝 

Speaker: Hiroki Kobayashi

Title: 氷IVの秩序化を目指して – XRDならびにRamanその場測定による予察的研究

氷には様々な高圧相の存在が知られており、そのうち氷IVは0.5-0.8 GPa程度の圧力領域において晶出することが知られている準安定相(特定の熱力学的なパスを通じてのみ得られる相)の一つである。具体的には、常圧での安定固体である氷Ihを加圧して高密度アモルファル氷(HDA)を得たのち、それを0.5 K/minで加熱すると、純粋な氷IVが結晶化することが報告されている(Salzmann et al., 2002)。

一般的に、固体状態の水における水素原子は、アイスルールと呼ばれる2つの規則に従う。

 [1] 1つの酸素原子に対して、2つの水素原子が配位する。

 [2] 1つの水素結合上には、1つの水素原子しか存在しない。

このルールに従うと、酸素原子を中心とする正四面体の頂点のうち、2つをランダムに選んで水素が配置できるかのようにに思えるかもしれないが、実際は必ずしもそうではなく、水分子が可能な配置のうち特定のものだけを取ることで規則的に整列した水素秩序相と、ランダムに配向した水素無秩序相に大別できることが知られている。

氷IVは、少なくとも260 Kでは水素無秩序相であるが、対応する、すなわち酸素位置が氷IVと同じで水素位置が秩序化したような相は未発見である。他の氷多形の例では、HClやKOHをドープすることにより秩序化が進行するものがあり、氷IVについても類似のアイデアをもとに行われた実験が1例のみ報告されている:Salzmann et al. (2011) は、0.01 MのHClをドープした氷IVを液体窒素温度で常圧に回収し、DSCによる熱測定を行った。その結果として、100 Kから130 Kにかけて、ゆるやかな吸熱ピークがあらわれることを報告しているが、このピークはほかの氷の秩序-無秩序相転移に比べてブロードであり、また吸熱量も小さかったことから、彼らは氷IVが液体窒素温度に回収される過程で非平衡状態へのトラップ、すなわちガラス転移を起こしたと考えているようである。

実は、氷IVに対する先行研究のうちほとんどはこの例のように液体窒素温度・常圧への回収試料において行われており、氷IVが結晶化するような高圧領域におけるその場での回折実験を行った査読付き論文の数はわずかに1である(Klotz et al., 2003)。さらには、水素の秩序化が起こるような温度領域でのその場観察実験の例はいまだかつてない。

本研究では、0.8 GPaにおいて氷IVを晶出させ、ゆっくりと冷却することによって、冷却時の氷IVの挙動を明らかにし、存在するかもしれない氷IVの水素秩序相への手がかりをつかむことを当面の目標としている。今回の地殻化学セミナーでは、X線回折パターンを中心とした低温その場観察の結果を報告し、来年初頭に予定されているJ-PARC PLANETビームラインにおける粉末中性子回折実験のための予察的な知見について議論したい。

発表者:小杉周平

Speaker: Shuhei Kosugi

タイトル:第四紀ジルコンの高精度年代分析法の確立:238U-230Th非平衡年代測定法の開発

Title: Establishment of High-Precision Dating Method for Quaternary Zircons: Development of 238U-230Th Non-Equilibrium Dating Method

ジルコンに含まれるチタン濃度はジルコンの結晶化時におけるメルトの温度と相関がある (Ferry and Watson, 2007)。これを利用することで、結晶化時の温度を推定することができる(Ti温度計)。ジルコンに対するTi温度計とU–Pb年代情報を組み合わせることで、数十万年以前の火成岩や変成岩の形成過程、特に熱史に関する知見を引き出すことができる(例えばYuguchi et al., 2016)。しかし、従来の年代測定法では、測定した年代データの不確定性の影響で、詳細な熱履歴の解読には至っていない。火山の噴火やマグマの活動を評価するためには、数万年程度の時間分解能が必要であり、その場合は238U–230Th非平衡年代測定法が有効である。238U–230Th年代測定法はウラン系列の中間生成核種である230Th(半減期7.5×104年:Cheng et al., 2013)を用いた測定法であり、ジルコン、モナザイトなどのウラン濃集鉱物の結晶化年代に用いられてきた(Schmitt, 2011)。ジルコンの局所U–Th年代測定における先行研究については、二次イオン質量分析法やレーザーアブレーションICP質量分析法において、高質量分解能の磁場型質量分析装置を用いた分析があげられる(例えば Lukács et al., 2018)。しかしながら、主として質量分析計の質量分散の制約から、同時計測が可能な質量数範囲が狭いため、U、Th同位体とSi、Tiの同時分析が困難であった。そこで本研究では、より広い質量数範囲を分析できる四重極質量分析計型ICP-MSを用い、さらに独自に開発した高速多点レーザーアブレーション法(Makino et al., 2019)を組み合わせることで、ジルコンのチタン濃度およびU–Th年代の同時測定を試みた。

正確な局所238U–230Th年代分析においては、ジルコンの主要構成元素(Zr, Si, Hf等)に由来する干渉イオンの影響を低減する必要がある。例えばジルコン分析においては、48Ti+に対する48Ca+96Zr2+(Yuguchi et al., 2020)、230Th+に対するZr2O3+(Layne and Sims, 2000)などが分析誤差の要因となるため、これらの干渉イオンの低減が不可欠である。そこで本研究では、コリジョン/リアクション法(ここでは酸素を用いたリアクションモードを使用)を用いて、48Ti+および230Th+に対する干渉イオンの低減を図った。コリジョン/リアクション法は、従来の干渉除去法(高質量分解能を用いた質量分離)に比べ、感度の低下が低減できるという利点を有する。高速多点レーザーアブレーション法とコリジョン/リアクション法の組み合わせを用いて、ジルコンの標準試料(91500ジルコン、GJ-1ジルコン、Plešoviceジルコン)からチタン濃度および230Th/238U比分析を行い、その信頼性を評価した。さらに天然の第四紀火山噴出物由来のジルコン未知試料(洞爺テフラのジルコン)についてチタン濃度およびU–Th年代の同位置測定を試みたので本発表で報告する。