2022年6月3日

Date: 16:00 – 18:00, Friday, June 3, 2022

講演者:栗原 かのこ

Speaker: Kanoko Kurihara

タイトル:「飛行時間型ICP質量分析法を用いた隕石マトリックス中の個別微粒子分析」

Title: Individual analysis of the particles in matrix of meteorites using ICP-TOF-MS

軽元素(原子番号がFeよりも小さい元素)はビッグバンや恒星内部で合成されたことが知られており、重元素(原子番号がFeよりも大きい元素)はAGB星・中性子星合体・超新星爆発などで合成されたと考えられている(Burbidge et al, 1957; 和南城, 2014)。しかしこのうち重元素については、合成環境や合成過程の完全な解明には至っておらず、数値シミュレーションにおいて合成量の再現はできていない。また、合成場から太陽系までどのように元素が輸送されてきたかについても未だ解明されていないが、銀河の形成過程や太陽系に元素を供給した天体の解明(Huss et al., 2009)に繋がることから、元素の輸送過程・輸送形態を明らかにすることは重要である。本研究では、元素の合成過程や輸送過程を解明するためには物質的な証拠が必要だと考え、コンドライト隕石のマトリックスを構成する微粒子に着目した。

コンドライトの中でも始原的である炭素質コンドライトのマトリックスは、異なる起源をもつ様々な微粒子で構成されており、それらの微粒子は太陽系初期の情報を保持していると考えられている(Bueseck and Hua, 1993)。また、マトリックスを構成する微粒子の中には、太陽系以前の情報を保持するプレソーラー粒子が存在することも知られている。そのため、マトリックスを構成する個々の微粒子の化学組成やサイズの分析により、元素の合成過程や太陽系までの輸送過程などについての情報を得ることができる(Bland et al., 2007)。本研究では、隕石中の微粒子を網羅的に分析する方法として、高速で微粒子個々の化学組成・サイズ分析を行うことができる飛行時間型ICP質量分析法(ICP-TOF-MS)に着目した。

ICP-TOF-MSを用いた粒子分析ではデータ量が膨大になるため、粒子データを迅速かつ視覚的に解析可能なソフトウェアが必要である。そこで、測定した全元素データの可視化と組成ごとの分類が可能なソフトウェアを開発した。

今回は、炭素質コンドライトであるAllende隕石から液中レーザーアブレーション法(LAL法)により抽出した微粒子の測定を行った。本発表では、得られた測定データを開発したソフトウェアで解析し、鉱物の同定と分類を行った結果について紹介する。

講演者:伊藤 颯

Speaker: Hayate Ito

タイトル:高圧下その場熱測定装置の開発に向けて

Title: Toward the development of an in-situ thermal measurement system under high pressure

水は私たちにとってもっとも身近な物質である一方、4℃での密度極大をはじめとした様々な水の物性のふるまいの原因は未だに明らかになっていない。氷には低密度アモルファス氷(LDA)と高密度アモルファス氷(HDA)が存在していて、これらは圧力に対して一次相転移的な変化をすることがわかっている(Mishima+, Nature. 1985)。この二つのアモルファス氷がもし別のアモルファス相であるならば、これらのアモルファス相に対応する二つの液相間の臨界点(第二臨界点)の存在が予想され、この第二臨界点の揺らぎの影響を考慮すると様々な水の物性の異常をうまく説明することができる(Fuentevilla+, Phys. Rev. Lett., 2006など)。このようにアモルファス氷に関して理解することは水の物性の理解にとても重要である一方、HDAやLDAの構造的な特徴は全くわかっていない。

発表者は修士課程において計算機シミュレーションから得られたアモルファス氷の構造について新しいトポロジー解析手法であるパーシステントホモロジーを使って調べてきた。これからアモルファス氷から出現する結晶相の種類はその構造のトポロジー的な類似性と関係していることが示唆された。一方結晶化はとても時間スケールの大きな現象であり、計算機シミュレーション上で結晶化を観察することはとても難しい。そこで発表者は博士課程の研究テーマの一つとして高圧下その場比熱測定装置を開発し、アモルファス氷の比熱測定を行うことを目標とした。本発表では様々な熱分析手法に関して紹介し、それぞれの特徴と高圧下測定の実現可能性を検討したい。