2022年10月14日

Date: 16:00 – 18:00, Friday, October, 14, 2022

発表者:中里雅樹

Speaker:Masaki Nakazato

タイトル:飛行時間型ICP質量分析計の検出器の信号出力直線性に関する検証

Title:Investigation into Output Linearity of Ion Detector of ICP-Time of Flight-Mass Spectrometer

炭素質コンドライトのマトリックスに存在するプレソーラー粒子は元素合成起源の同位体組成を保持しており、太陽系を構成する元素の供給源や、元素合成場から太陽系までの輸送過程を解明するための物質的な証拠として注目されている。これらの情報を得るためには、特異的な同位体組成に基づいたプレソーラー粒子の判別のために同位体比分析が、元素の輸送過程における担体の特定や、粒子の形成に関連する宇宙化学的イベントの解明のために元素組成分析が必要である。一方で、個々のプレソーラー粒子は主にnmサイズの超微粒子であり(e.g., Amari et al., 1994; Hynes and Gyngard, 2009)、さらにマトリックスを構成する超微粒子のうち1万から100万個に1個程度しか存在しないため(Davidson et al., 2014)、プレソーラー粒子の分析には個別の超微粒子に対する高感度・高速分析法が不可欠である。

プレソーラー粒子に関する多くの先行研究では、二次イオン質量分析法やレーザー共鳴イオン化質量分析法による個別粒子分析が行われてきた(e.g., Hoppe and Ott, 1997; Ireland et al., 2018; Stephan et al., 2019)。しかし、個別粒子分析のスループットは速くても毎分10粒子程度であり(Nittler et al., 2018)、多数のプレソーラー粒子の網羅的分析による客観的な情報取得が困難という問題点がある。そこで本研究では、飛行時間型ICP質量分析計(ICP-TOF-MS)を用いた個別超微粒子の超高速全元素分析(毎分数百粒子以上)に着目し、プレソーラー粒子の新しい分析法の開発を目指す。これにあたり、本研究ではまずICP-TOF-MS(Nu Instruments社製Vitesse)の信号出力直線性の検証を行い、プレソーラー粒子の分析に向けた基礎的な評価を行った。

まず、イオン標準溶液を用いて検出器の信号出力直線性を評価したところ、104 cps程度のビーム強度から検出器のゲインが増加し始め、106 cps程度から減少し始めるという2段階の変動が見られた。次に超微粒子試料で同様の検証をしたところ、超微粒子では瞬間的なビーム強度が非常に大きいため、高信号強度におけるゲインの減少傾向がより顕著に現れ、さらに検出器の飽和も確認された。これを受けて、超微粒子の多元素同位体比分析のダイナミックレンジの拡大には、検出器のゲイン回復時間を考慮したゲイン低下の補正や、アッテネーターなどを応用したビーム強度の減衰による検出器飽和の回避が必要であることが判明した。

発表者:田中栄成

Speaker:Eisei Tanaka

タイトル:ICP質量分析計によるナノ粒子凝集体の評価

Title:The Evaluation of Aggregated Nanoparticles with ICP-MS

ウイルスの多くはヒトの健康に悪影響を及ぼすことが報告されており、感染症の原因たるウイルスの高感度で迅速な検出が求められている。
本研究では元素の高感度・迅速分析が可能なICP質量分析法(ICP-MS 法)に着目し、ICP-MS 法を応用したウイルスの検出法の開発を目指した。分析対象ウイルスのDNA(もしくはRNA)やウイルスのスパイクタンパク質にナノ粒子を標識し、ナノ粒子に関して ICP-MS 法で分析を行うことで、間接的にウイルスの検出を行う。また、ICP-MS 法では個々のナノ粒子の検出が可能であるため、ウイルスを一個からの検出が期待できる。
ウイルスを正確に検出するためにはプローブ溶液中の金ナノ粒子の挙動、特に凝集について理解する必要がある。ICP-MS法では凝集したナノ粒子は一つの大きな粒子として測定されるため、検出されるナノ粒子濃度(検体中のウイルス濃度)についての確度低下が懸念される。