Date: 16:00 – 18:00, Friday, June 14, 2024
講演者: 飯塚 理子
Speaker: Riko IIZUKA-OKU
タイトル:下部マントル条件下でのKAlSi3O8 ホーランダイト相への重い希ガスの取り込み
Title: Incorporation of heavy noble gases into KAlSi3O8 hollandite under lower mantle conditions
要旨:
希ガスは化学的に安定で不活性な揮発性元素であり、通常は化合物を作らない。いくつかの安定・放射性同位元素を持つことから、地球化学的トレーサーとして、揮発性物質の循環や地球大気の進化を探る上で重要な役割を担っている[例えば Marty, 2012]。とりわけ、地球や火星の大気中のキセノン(Xe)存在度は、他の希ガス元素(He, Ne, Ar, Kr)に比べて枯渇している(ミッシングXe)ことが知られており、地球深部にXeが貯蔵されている可能性が提唱された。これまでにも地殻や上部マントル、コア領域に存在する様々な鉱物種や金属が高く注目されてきたが、Xeのリザーバーはいまだに確定していない。近年、下部マントルの主要鉱物であるブリッジマナイトMgSiO3やフェロペリクレース(Mg,Fe)Oへの希ガス取込みについても研究成果が報告されている[Shcheka and Keppler 2012, Rosa et al. 2019, Zhu et al. 2022]。しかし、これらの下部マントル鉱物において、酸素空孔への置換のメカニズムで入りうるXe量はごく僅かであり、地球上で欠損したXeをこれらの鉱物だけで保持し得るとは考えにくい。
本研究では、不足したXeを地球内部に保持しうる下部マントル鉱物種を高温高圧実験によって特定するべく、カリウムKに富む長石(K-feldspar, KAlSi3O8)の高圧相に着目した。SiO6とAlO6の配位多面体が作るトンネル構造を持つKAlSi3O8 Hollandite相は、K+(Arと同等サイズ)やLILE(large ion lithophile elements)などの大きな陽イオンを結晶構造中に取り込み、下部マントル最深部まで安定に運ぶホスト鉱物として知られている[Hirao et al. 2008など]。本研究では、15 GPa, 1450ºCで高温高圧合成したHollandite-I相を出発物質として、レーザー加熱ダイヤモンドアンビルセル(LH-DAC)を用いて80 GPa, 3000 Kまでの高温高圧下でのX線回折その場観察とラマンスペクトル測定を行った。圧媒体にはXeと、比較のためにArを用いた。本発表では、回収試料のXAFS測定と希ガス質量分析から残存するXeおよびArの定量を行った結果を示し、Hollandite相への希ガスの取り込み機構について考察する。
講演者: 佐藤 美彩希
Speaker: Misaki SATO
タイトル:低温高圧下で出現する新規エタノール結晶相群のX線構造解析
Title: X-ray structure analysis of new crystal phases of ethanol appearing at low temperatures and high pressures
エタノールは炭素二原子からなる一価のアルコールであり、ヒドロキシ基をもつことで分子間の水素結合を形成できる。エタノールの固体結晶相のうち、分子の配向が決まっている通常の結晶相として、常圧下157 K以下で出現する低温相(空間群P21/c、以下I相と呼ぶ)(Jönsson,1995)と室温下1.9 GPa以上で出現する高圧相(空間群Pc、以下III相と呼ぶ)(Allan and Clark,1999)の2つが知られていた。さらにこれまでに、これらとは異なる結晶構造をもつ未知相がI相とIII相の間の条件で複数個見出されており、(小泉修士論文,2014)(矢部卒業論文,2021)、卒業研究では、既知, 未知の全ての結晶相における融点の圧力依存性を測定することにより、各圧力領域における結晶相間の安定関係の推定を行った。
エタノールの固体結晶相には、上記のI相, III相の他に、常圧条件で分子の配向が乱れたプラスチック相(bcc、以下II相と呼ぶ)の存在が知られていた(Haida et al.,1977など)。II相は、液体を急冷して得られたアモルファスを適切な温度(110 K付近)で数時間アニーリングすることで得ることができるとされている。しかし、そのアニーリング条件(温度や時間)は文献によって異なり、またII相を加圧した先行研究は報告されていない。そこで本研究では、このII相を加圧することで、どの結晶相へ相転移するのかを調べるとともに、アモルファスを加圧しその後昇温することで、常圧時と同様にアモルファスからII相が出現するのかを複数の圧力点で実験した。その結果、高圧下でアモルファスから結晶化させることで、今までに報告されていない結晶構造をもつ結晶相が新たに見つかった。本発表では、この結晶相の構造について議論する。