Date: 16:00-18:00, Friday, November 21, 2025
講演者:鍵裕之
タイトル:炭酸カルシウムは高温高圧下で非晶質化するか?
要旨:地球表層から深部に至る炭素循環を議論する上で、海洋地殻の沈み込みにともない深部マントルへ炭素を運搬する炭酸カルシウムは重要な役割をもつ。炭酸カルシウムには、カルサイト、アラゴナイトといった結晶多形に加え、非晶質炭酸カルシウム(ACC: amorphous calcium carbonate)も存在し、バイオミネラルの前駆体などとして注目を集めている。ACCは化学式CaCO3 nH2O (n<1.5)で表され、構造中に水を含む点が特徴である。常圧下では約400℃で、室温下では1 GPa以下で結晶化することが知られている(Koga et al., 1998; Xu et al., 2006; Yoshino et al., 2012など)。
Hou et al.(2019)は、炭酸カルシウム(アラゴナイト)が4-6 GPa、1000-1700 Kで非晶質化することを示し、ACCが沈み込み帯に存在しうること、そして炭素循環において重要な役割を果たしうる可能性を指摘した。さらに、Hou et al.(2024)は、高温高圧下で弾性波速度を測定し、ACCによる地震学的な速度異常の可能性を報告した。一方、Litasov et al.(2017)は、3-5 GPa、1100 K以上の条件では非晶質化は観察されず、高温領域において無秩序相あるいは新たな結晶相が確認されたと報告している。Duzhbin et al. (2022)も類似の圧力領域で新たな結晶多形の存在を示唆し、非晶質化は観察されなかった。このように地球内部の高温高圧条件でACCが安定に存在できるかは議論が分かれている 。
本研究では、古屋敷産天然アラゴナイトを出発試料として、高温高圧下X線回折実験を大型放射光施設SPring-8 BL04B1において行った。圧力発生にはSPEED-Mk.IIにDIA型ガイドブロックシステムを組み込んだ川井型マルチアンビル装置を用いた。X線回折は2θ=6°でのエネルギー分散法、そして60 keVの単色X線を用いた角度分散法で測定した。いずれも炭化タングステン製TEL12 mmあるいは 5 mmアンビル(26 mm角)を用い、約3 GPaから6 GPa まで加圧後、温度を室温から1400 -1500 Kまで上げながらX線回折パターンを取得した。
実験の結果、Hou et al.(2019)が提唱したアラゴナイト-ACCの境界温度を超えても、アラゴナイトの回折パターンに大きな変化は見られなかった。Litasov et al. (2017)が提唱した、より高温側に位置するアラゴナイト-無秩序相境界を超える温度では、回折強度の低下は見られたものの、Hou et al. (2019) で報告されたような非晶質化にともなうhaloピークは観察されなかった。なお、Hou et al.(2019)の実験はParis-Edinburgh型プレスを用いており、本研究に用いたマルチアンビル高圧発生装置との加圧方式の違いが、異なる結果をもたらした要因である可能性がある。
講演者:趙(チョウ) 馨雅
Speaker: ZHAO XINYA
タイトル:誘電体バリア放電イオン源の定量性評価:複数種類のアミノ酸が共存する場合のイオン化効率の変化
Title: Ionization Features of Dielectric Barrier Discharge (DBD) Ion Source for Quantitative Analysis of Amino Acids in Mixtures
要旨:生体内には多様な生体分子と金属元素が存在し、それぞれ重要な機能を担っている。金属元素の役割を通じて生体機能を理解する研究分野はメタロミクスと呼ばれ、近年急速に発展している(原口ら, 2020)。これに伴い、生体内の金属濃度や分布を分析するさまざまな手法が開発されてきた。その中で、レーザーアブレーション試料導入(LA)とICP質量分析法(ICP-MS)を組み合わせたLA-ICP-MSは、生体中の微量金属元素を高感度に定量分析可能であり、さらにイメージング分析により元素の分布も取得できるという点で広く用いられている。しかし、金属の情報のみでは生体機能の理解には不十分であり、近年は金属と生体分子の同時分析が求められている。LA-ICP-MSはppbレベルの金属定量が可能な一方で、ICPの高温(約8000℃)により分子が原子レベルまで破壊され、生体分子情報が失われてしまうという課題がある。
そこでこれまで研究室では、LA試料導入と組み合わせ可能な低温大気圧イオン源を開発し、ICP-MSと新規イオン源の併用による金属元素と生体分子の同時イメージング分析法の開発を行った。生体分子分析のための低温大気圧イオン源として、誘電体バリア放電イオン源(DBDI)に着目しており、これまでの研究から分子構造を壊さずにイオン化可能であることが分かった。(Khoo et al., 2022)
しかし、実際の生体試料では多様な分子が共存するため、各分子の定量性やイオン化効率への影響評価は未だ十分とは言えない。混合試料(アミノ酸同士やアミノ酸と他物質)を用いたこれまでの実験から、以下のポイントが示唆されている。
① 異なる種類の物質が共存すると、混合物質の性質に応じてイオン化効率が変動する
② 試料導入量を過剰に増やすと、同一種類のアミノ酸間でもイオン化競合が生じる可能性がある
前回研究では②に着目し、単一成分試料の導入量を段階的に増加させることで、イオン化競合が発生する限界点と定量性への影響を評価した。
本研究では①に焦点を戻し、複数種類のアミノ酸が共存する条件下におけるイオン化効率の変化について検討する。特に、各アミノ酸のプロトン親和力に基づく競争的プロトン化反応に着目し、DBDIにおけるイオン化機構の理解と定量分析に向けた基礎検討を行う。