Date: 16:00-18:00, Friday, October 17, 2025
講演者: 川道豪秀
タイトル: プロピオン酸-アルコール混合溶液の室温高圧下における固化条件とエステル化反応
要旨:
【はじめに】 これまでにベンゼンやアラニンなどの有機化合物が室温高圧下において重合することが示され、惑星内部において有機物が化学進化する可能性が示唆されてきた(e.g., Shinozaki et al., 2014; Fujimoto et al., 2015)。さらに、酢酸あるいはリン酸とメタノール間でのエステル化反応が常圧条件よりも高圧下で顕著に進行し、反応物が結晶化せず分子レベルで混合する状態において反応が進行することが示された(高橋ら, 2017; Sun et al., 2020)。本研究では、プロピオン酸(C2H5COOH)とメタノールもしくはエタノールの混合溶液の固化圧力とラマンスペクトルを測定し、エステル化反応が進行する条件を見出すことを目的とした。
【実験方法】 プロピオン酸とメタノール、プロピオン酸とエタノールをモル比33:67、40:60、45:55、50:50、67:33、75:25で混合し、ダイヤモンドアンビルセルに導入した。発生圧力をルビー蛍光法で測定しながら試料を10 GPa程度まで室温で加圧し、光学顕微鏡により固化を観察後、X線回折パターン測定を行なった。また固化が観察されなかったモル比の混合溶液のラマンスペクトルを測定した。
【結果と考察】 プロピオン酸-アルコール混合溶液の組成に対する固化圧力を測定した。プロピオン酸の比率が低いほど試料の固化圧力は増加した。また、メタノールよりもエタノールを混合した方が固化圧力は高くなる傾向が観察された。プロピオン酸-メタノール系とプロピオン酸-エタノール系の固化圧力はどちらとも、高橋ら(2017)による酢酸-メタノール系での測定結果よりも高い値となった。一方、プロピオン酸が40%以下の試料では光学顕微鏡観察では固化は確認されなかった。X線回折パターンからも結晶に由来するブラッグ反射が観察されなかったため、これらの試料は液体もしくはガラスとして存在していたと考えられる。また固化が確認されなかったプロピオン酸とメタノールのモル比33:67の混合溶液を5 GPa程度まで加圧しラマンスペクトルを測定したところエステル化反応が進行したことを示すピークが確認された。これらの結果は惑星内部の高圧条件が有機分子間の縮合反応による化学進化の場となる可能性を示唆している。
講演者:栗原 かのこ
Speaker: Kanoko Kurihara
タイトル:飛行時間型ICP-MSを用いた隕石中の難揮発性元素濃集粒子の元素分析
Title: Elemental Analysis of Refractory Metal Nuggets in Meteorites using ICP-TOF-MS要旨:
始原的な隕石であるコンドライトのマトリックス中に存在する粒径µm未満のナノ粒子は、それぞれが異なる形成起源の情報を保持している(Gyngard et al., 2009)。特に、粒子に含まれる難揮発性重元素を分析することで、太陽系初期の凝縮・変成過程や重元素の合成過程の解明が期待される。このような難揮発性重元素は隕石中に数ppmしか含まれておらず、これらの元素を含む粒子の粒径も数十から数百nmと極めて微小である(Lodders et al., 2009)。そのため本研究では、これらの粒子から宇宙化学的な情報を取得することを目的として、ナノ粒子個別の迅速かつ高感度な元素同位体分析手法の開発を行った。この分析法は、隕石からのナノ粒子サンプリングに液中レーザーアブレーション(LAL)を用い、得られた粒子の個別元素分析を飛行時間型ICP質量分析装置(ICP-TOF-MS)で行うものである。
LALを用いることによって、コンドライトマトリックス内の粒子を破砕を抑えてサンプリングできる(Kurihara et al., 2023)。一方、本研究の過程で、LALの溶媒に水を用いると元素が溶出し、バックグラウンド信号の増加を招くことが明らかになった。その結果、微小粒子の検出や正確な元素組成の評価が困難となる問題が生じた。このような元素の溶出を最小限に抑えるには、LAL溶媒を慎重に選択する必要がある。そこで、本研究では様々な溶媒を用いてLALを実施し、元素の溶出量およびサンプリング効率を比較することで、溶媒の最適化を行った。
溶媒の最適化後、6種類のコンドライトを分析し、主要鉱物であるケイ酸塩粒子および難揮発性重元素を含む粒子の解析を行った。その結果、超難揮発性重元素のみを濃集した金属ナゲットが複数検出された。これらの粒子は、その元素組成から太陽系初期の凝縮過程を反映していると考えられる。本発表では、コンドライトマトリックス中の難揮発性重元素の分析結果の詳細を紹介する。