Date: 16:00-18:00, Friday, October 24, 2025
講演者: 福島 菜奈絵
タイトル:霧島火山群の火山ガス中のヘリウム同位体比の時空間分布から評価する火山活動度
要旨:
本研究では、九州南部の霧島火山をケーススタディとし、火山ガスの3He/4He(ヘリウム同位体)比の時間推移と地盤変動を比較し、マグマ/水蒸気噴火及び土砂・硫黄噴出の前後における顕著な変動を発見した。これは複数アプローチの活用により、噴火予測が難しいとされる水蒸気噴火の切迫性の評価精度を向上させる可能性を示す。
霧島火山において、近年活発な新燃岳とえびの高原硫黄山(以下、硫黄山)を対象とした。新燃岳では2011年2月頃約300年ぶりに本格的なマグマ噴火が発生した。その後新燃岳では2017年10月、2018年3月に噴火が発生し、2018年4月に硫黄山にて水蒸気噴火が発生した。2025年6月に新燃岳が7年ぶりに噴火し、小規模噴火を繰り返している。2011年新燃岳噴火時の地球物理学的観測から推定された新燃岳のマグマ溜まりの位置は硫黄山に近いことから、両火山のマグマ溜まりは共通である可能性が考えられる。現在、新燃岳山頂は入山規制中であるが、マグマ溜まりが共通であれば、硫黄山の地球化学データは新燃岳の活動度の評価にも活用できる。
2016~2025年にかけて数か月おきに、硫黄山と、新燃岳の南西山麓の噴気孔から火山ガスを直接採取し、実験室にて3He/4He比を測定した。また本研究では測定結果が火山全体の活動を反映しているかを確かめるために、硫黄山地下数百mの圧力源の体積変化(熱水溜まりの膨張・収縮)と比較した。
2017・2018年の噴火前後で3He/4He比は有意な変動を示した。噴火に先立ち3He/4He比は上昇し、噴火後に下降した。この時期、硫黄山下の熱水溜まりは急膨張し、3He/4He比との相関を示した。一連の結果における示唆は以下2点である。(1)マグマ溜まりからの揮発性成分の供給が火山活動に多大な影響を与えることを実証した、(2)新燃岳噴火時の新燃岳火口からのマグマ起源ガス放出により硫黄山側へのマグマ成分の寄与が低下するため、硫黄山の3He/4He比が下がると考えられる。
なお2025年6月の噴火後に3He/4He比はやや下がったものの、2018年噴火後のような明瞭な変化は示さなかった。この違いは今後の新燃岳の活動推移を予測する上での手がかりとなるため、引き続き多角的アプローチからマグマの状態と噴火素過程の理解を深める必要がある。
講演者:川嶋 大陸
Speaker:Tairiku Kawashima
タイトル:アパタイトのフィッショントラックアニーリングと熱計算
Title:Fission Track Annealing in Apatite and Thermal Calculations
要旨:
アパタイトは一般的な地殻岩石の多くに普遍的に存在し、2価のカルシウムと置換することでUやThなどの微量元素を取り組む。このことからアパタイトはU-Pb法や(U-Th)/He法、フィッショントラック(FT)法などの多様な地質年代測定法に利用されている。中でもFT法は238Uの自発核分裂を利用して、年代測定を行う手法である。年代を測定する際は、エッチングという化学処理を行うことで表面に存在するトラックを目視可能なサイズまで拡大する。これによってトラックの本数を数え、さらに鉱物中のU濃度を参照することによって年代を決定する。
一方でエッチング処理を経ていない小さなトラックは、加熱(アニーリング)によって消失することが知られている。この消失現象は温度と時間に依存し、加熱温度の上昇や加熱時間の増加によってトラックの消失は進行する。この性質により、FT法は地質の熱履歴を調べる目的でも応用が進んでいる。
フェムト秒レーザーの照射を行うことでもアニーリングによるトラックの消失が発生することが確認されている。レーザー照射後には照射点を中心にして同心円状にトラックの消失が進行した。これは加熱の状況がちょうどトラックの消失する時間・温度条件と重なることを意味し、レーザーによる加熱状況を知る上での1つの指標になることが期待される。
本研究は、レーザー照射試料に対して熱拡散計算を実施し、トラック消失領域の時空間分布を再現することでレーザーによる局所加熱過程を定量的に評価し、アパタイトFTトラックのアニーリング機構に対する理解を深めることを目的としている。
今回は熱拡散方程式を解くために必要な境界条件を求めるため、マダガスカルアパタイトをアニーリングしたので、その結果について報告する。また、その取扱いや、より理想的な条件について議論する。