Date: 16:00-18:00, Friday, October 31, 2025
発表者:福士裕輔
Speaker: Yusuke FUKUSHI
タイトル:誘電体バリア放電イオン化質量分析法(DBDI-MS)を用いた超音波霧化装置での試料導入による有機化合物の測定
Title: Analysis of Organic Compounds by Ultrasonic Nebulization Sample Introduction with Dielectric Barrier Discharge Ionization Mass Spectrometry (DBDI-MS)
要旨:
質量分析計は高精度に質量の分析が可能なため、混合物中に含まれる多種類の物質を正確に区別することができる。また、高感度・高選択性にも優れており、微量成分の検出も可能である。質量分析計で食品に含まれる成分を明らかにし、鮮度を評価する試みが報告されている(Mayr et al., 2024)。食品の鮮度評価のためには、簡便かつ迅速に測定できる手法が求められる。食品は主に有機化合物から構成される。有機化合物を質量分析計で分析するための問題点として、質量分析計は試料をイオン化する必要があり、試料に大きなエネルギーを与える。有機化合物は与えられたエネルギーで開裂し、元の分子量情報を失う。そこで、前処理を必要としない、大気圧下でのソフトなイオン化が可能な誘電体バリア放電イオン化法(DBDI)を用いることで、有機化合物の元の情報を保持したまま迅速な測定が実現できる。
本研究では液体食品としてコーヒーの測定を行った。コーヒー中には揮発性の異なる多様な有機化合物が含まれる。物質の揮発性によらず気化させるため、試料を加熱する方法がある。しかし、加熱による気化では、有機化合物が熱分解する可能性がある。そこで、超音波霧化装置を用いた。この装置により、有機化合物に与えるエネルギー負荷を最小限に抑え、迅速に試料を気化させて質量分析計に導入することが可能である。
これまで平田研で用いられていたDBDI装置の試料導入部は、石英製ガラス管どうしの接合部が密閉されておらず、気密性に課題があった。この夏、その部分が密閉構造に改良された。改良されたことで試料の分析結果への影響について考察する。
Speaker: Misaki Sato
タイトル:低温高圧下で出現する新規エタノール結晶相の結晶構造と安定性
Title: Crystal structure and stability of the new crystal phase of ethanol appearing at low temperature and high pressure.
要旨:
エタノールは最も基本的な分子の一つであるが、高圧下におけるその相図はよくわかっていない。エタノールの固体結晶相のうち、安定な秩序結晶相としては、常圧下157 K以下で出現する低温相(空間群P21/c、以下I相と呼ぶ)(Jönsson,1995)と室温下1.9 GPa以上で出現する高圧相(空間群Pc、以下III相と呼ぶ)(Allan and Clark,1999)の2つが知られていた。さらにこれまでに、これらとは異なる結晶構造をもつ未知相がI相とIII相の間の条件で複数個見出されてきた(小泉修士論文,2014)(矢部卒業論文,2021)。そこで本研究では、既知, 未知の全ての結晶相における融点の圧力依存性を測定することにより、各圧力領域における結晶相間の安定関係の推定を行った。また、その過程で、今までに報告されていない新たな結晶相(以下VI相と呼ぶ)が見つかった。
VI相は比較的低圧領域にて作成できる。しかし、低圧側では上記で述べた通り、I相が安定に存在できることが複数の先行研究によりわかっていた。そのため、なぜ先行研究でVI相発見されなかったのかを考察し、I相とVI相の安定関係について議論する。また、VI相単結晶を作成し、X線結晶構造解析を試みているため、その現状についても報告する。