2025年12月5日

Date: 16:00-18:00, Friday, December 5, 2025


講演者: 末冨 百代
Speaker: Momoyo Suetomi

タイトル: 赤外および近赤外吸収分光法を用いた水試料中の炭酸種、硫酸イオン、および塩分の迅速分析手法の開発

要旨: 

 本研究は、海水、温泉水、流体包有物など、炭酸種(CO₂(aq)、HCO₃⁻、CO₃²⁻)と塩分を含む溶液試料を対象に、これらの成分を迅速かつ正確に測定する新たな手法の開発を目的とする。従来は、炭酸種の濃度決定には、pH、pCO2、全炭酸、全アルカリ度のうちの二つを測定し、化学平衡を計算するという複雑な手順が必要であり、塩分との同時分析も困難であった。先行研究では、赤外吸収分光法を用いた炭酸種の観測が行われているが[1,2]、詳細なデータが出ているのは海水の20倍以上の全炭酸濃度(海水の全炭酸量は約2 mmol/kg)であり、また塩分との同時定量は試みられていない。そこで本研究では、赤外および近赤外吸収分光法を用い、炭酸種と塩分を簡易的にリアルタイムで解析できる手法の構築を目指す。特に、海水中の二酸化炭素は気候変動と密接に関係しており、CO₂の増加による海洋酸性化は生態系に深刻な影響を及ぼす。炭酸種はpHや塩分により変化するため、今後の環境変動を理解する上で、これらの正確な同時測定は重要である。
 実験室で調製した水溶液試料の赤外・近赤外吸収スペクトルをFTIRを用いて透過法で取得し、ガウス関数によりピークフィッティングを行った。1200–1500 cm⁻¹の領域で、本研究で得られた各炭酸種のピーク高さと、従来法(pHと全炭酸からの化学平衡計算、Daviesの式による活量補正)から算出した各炭酸種濃度を用いて検量線の作成を試みた。4500–5500 cm⁻¹の領域では、水分子の結合音のスペクトル形状と塩分濃度の相関関係を海水の濃度付近で詳細に調べる。
 全炭酸濃度を海水の1~10倍程度に設定したNaHCO₃溶液では、HCO₃⁻に帰属される2つの吸収ピークが観測され、従来法で得られたHCO₃⁻の濃度と、各ピーク高さの間に良好な相関が確認された。また、全炭酸濃度を海水の約4倍に調整したNaHCO₃溶液にNaOHまたはHClを添加してpHを段階的に変化させると、HCO₃⁻(1303, 1364 cm⁻¹)に帰属される吸収の強度がpHに応じて変化し、さらに低pH溶液ではCO₂(aq)の逆対称伸縮振動(2350 cm⁻¹)、高pH溶液ではCO₃²⁻(1396 cm⁻¹)が確認され、濃度推定値と吸光度との対応が得られた。
 一方、塩分と相関する4500–5500 cm⁻¹帯域については、干渉縞の影響により信号の定量化が難航しており、現段階では定性的な傾向の確認にとどまっている
 実際に若洲海浜公園で採水した東京湾の海水を測定したところ、炭酸種の吸収ピークは検出限界付近にとどまった。一方で、補足的な結果ではあるが、SO₄²⁻に帰属される吸収ピークは明瞭に確認された。そこで、硫酸イオン濃度を海水の0.15~2.3倍に設定したNa₂SO₄溶液およびMgSO₄溶液についてSO₄²⁻に帰属される吸収ピークを観測したところ、そのピーク高さと濃度との間に非常に良好な相関が得られた。さらに、実際の海水試料のピーク高さも、この相関関係から予測される値とよく整合していた。
 将来的には、小型FTIR装置を用いて海水など天然サンプルの現場測定を行うことを目指している。



講演者: 北川 朋玖
Speaker; Hoku Kitagawa

タイトル: 高温高圧条件下において炭素および水素がhcp鉄の体積に与える影響

要旨: 
地球の内核は主に固体の鉄で構成されているが、その密度は内核条件下での純鉄の密度より小さい(e.g. Fei et al., 2016)。これは軽元素(鉄より軽い元素)の影響によるものであり、H, C, O, Si, Sが主要な候補である(e.g. Poirier 1994)。水素と炭素は、高圧下において鉄の単位格子中に侵入して、その単位胞体積を膨張させ、密度を低下させる(Badding et al., 1991; Yang et al., 2019)。特に水素による体積膨張は水素誘起体積膨張と呼ばれ、これまでに多くのFeHxについての研究が行われてきた(e.g. Machida et al., 2014,2019; Ikuta et al., 2019)。さらに、鉄合金における水素誘起体積膨張も研究されてきた(Shito et al., 2023; Mori et al., 2024)。
一方、炭素の固溶による鉄の体積膨張については、先行研究で報告されている値にばらつきがあり、その影響は不明な点が多い(Yang et al., 2019; Huang et al., 2022; Lai et al., 2025)。またHirose et al., (2019)は、高温高圧条件下における液体鉄中で、炭素と水素が排他的な関係を示すことを報告しているが、鉄炭素合金における水素誘起体積膨張は依然として不明である。
本研究では、高温高圧条件下において、①炭素の固溶がhcp鉄の体積に与える影響と、②鉄炭素合金の水素誘起体積膨張を探ることを目的とし、高温高圧下X線回折実験をKEK PFAR NE7Aにて行った。圧力発生にはDIA型ガイドブロックシステムを用いたマルチアンビルプレスを使用した。X線回折は2θ=6°のエネルギー分散法で測定した。また回収試料について、SEM-EDSを用いた観察を行った。
①高温高圧下における炭素の固溶がhcp鉄の体積膨張に及ぼす影響
鉄の粉末を封入したカプセルと、炭素が1.5 wt%になるよう鉄とグラファイトの粉末を混合し封入したカプセルの2つを用意した。これら2つのカプセルを1つのセル中に導入し、同一温度圧力条件下における体積の違いを観察した。
実験の結果、1.5 wt%の炭素を含んだ鉄は純鉄より体積が膨張していたが、その体積膨張の程度は先行研究に比べると有意に小さかった。この原因として、出発物質の違いにより本実験では導入した炭素が完全に固溶していない可能性が考えられる。
②鉄炭素合金における水素誘起体積膨張
炭素が0.5 wt%になるよう鉄とグラファイトの粉末混合した試料と、水素源としてアンモニアボランを封入したカプセルをセル中に導入し、鉄の水素誘起体積膨張に炭素が与える影響を観察した。
実験の結果、水素化により炭素を含む鉄試料の体積膨張が確認された。一方、水素共存下では炭素による体積膨張は認められなかった。