Date: 16:00-18:00, Friday, December 19, 2025
講演者:角野浩史(Hirochika Sumino)
タイトル: 草津白根山における噴気および温泉・鉱泉ガスの希ガス同位体組成の時空間変動
要旨:
火山ガスには微量のヘリウムが含まれており、その同位体比(3He/4He比)は地下のマグマの状態を敏感に反映する。また、3He/40Ar*比(40Ar*はマグマ由来の40Arを示す)もマグマの脱ガス状態に関する情報を与える。本セミナーでは、2016年度から今年度までの文部科学省の「次世代火山研究・人材育成総合プロジェクト」を通して得られてきた成果の1つとして、草津白根山火山とその周辺における火山性流体(噴気や温泉)の3He/4He比および3He/40Ar*比の時間的・空間的変動について紹介する。
噴気および温泉・鉱泉溶存ガスの3He/4He比の空間分布は、最近の水蒸気噴火のほとんどが発生している湯釜火口からの距離の増加に伴い、3He/4Heが系統的に減少することを示している。これは、3Heに富むマグマ起源流体が地殻中を移動する間に、低い3He/4He比をもつ地殻起源のヘリウムが徐々に加わるという流体力学的分散モデルで説明できる。一方で詳細に見ると、3He/4Heの分布は浅部における局所的な透水性構造にも支配されていることもうかがえる。
また2014年から現在までにいくつかの噴気で観測されている3He/40Ar*比の時間変動は、マグマの発泡度の変化を反映している可能性がある。すなわち噴気の3He/40Ar*比は、マグマの脱ガス状態を監視する上で有用な指標であり、火山活動の活発化の際に地下深部で何が起こっているかを推定する一助となると期待される。
講演者:平田裕香
タイトル:マウスの腎臓を用いた白金薬剤のハイブリッドイメージング分析
要旨:シスプラチンとは中心の白金原子に2つのアンモニア分子と二つの塩化物イオンがシス型に配位した平面四角形錯体である白金薬剤であり、様々ながんの治療に用いられる抗がん剤である。しかし、副作用として腎障害、骨髄の機能障害、神経障害などが挙げられる。抗がん剤による腎障害はがん治療の継続可否や、患者のQOL、生命予後に影響する。治療開始前に既に腎機能が低下している患者も多く、がん薬物療法の実施前・実施後、さらに長期的に腎臓病管理が必要ながん患者が増加している。
マウスではシスプラチン投与後1時間以内で血漿中のシスプラチン濃度は急速に低下し、腎臓を含む組織へ移行・蓄積する。シスプラチンの消失動態は二相性を示しており、初期(15分以内)の腎臓で急速な蓄積の後、非常に早く減少するが、その後再び上昇し、投与後48~72時間で2つめのピークに達する(Perse et al., 2018)。腎障害は、シスプラチン20mg/kgを単回投与することで、72時間後に腎障害が誘導されることが示されている。このことから、シスプラチンは腎臓に蓄積されてから腎障害が誘発される15分から72時間の間に化学形態や分布が変化していると予想される。しかし、超早期フェーズである投与後 15~60分で腎臓で何が起こっているか詳細が明らかになっていない。
本研究では、分子分析が可能な DBDI-MS と、高感度な元素分析法である ICP を同時に用いたハイブリッドイメージング分析を行い、投与後15~60分の超早期フェーズにおける腎内白金集積動態を解析する。シスプラチンの形態変化の追跡は、投与量および投与時間を変化させ、それらをイメージング画像として可視化することで行う。