2024年2月9日

Date: 16:00 – 18:00, Friday, February, 9, 2024

発表者:栗原 かのこ
Speaker: Kanoko Kurihara

タイトル:黄鉄鉱の液中レーザーアブレーション
Title: Laser ablation in liquid (LAL) of pyrite
 
液中レーザーアブレーション(LAL)法は、溶媒中で固体試料にレーザーを照射することにより、微粒子を生成・抽出する方法である(e.g., Mafuné et al., 2000)。高効率で粒子の生成が可能であること(Streubel et al,, 2016)や、従来の化学的方法では生成が困難な準安定粒子も生成できるということ(Santagata et al., 2011)から、近年新しい微粒子の生成法として着目されている。さらに、固体試料への熱的影響を抑えたアブレーションが可能であること(Shaheen et al., 2013)から、隕石試料から微粒子をそのまま抽出する手法としても有用である(Kurihara et al., 2023)。
一方で、LAL法における微粒子の生成過程については、未だ明らかになっていないことが多く存在する。中でも、LALに用いる溶媒が粒子の生成にどのように影響し、どのように反応するかは未解明である(Kanitz et al., 2019)。そこで、本研究では、LAL法における粒子の生成過程を明らかにするために、黄鉄鉱(FeS2)を試料に用いて、LALで生成された粒子の個別元素組成分析を行った。黄鉄鉱は、水により酸化され(Garrels and Thompson, 1960)、さらに温度やpHを変化させると異なる酸化反応を起こすことも知られている(Zunino and Scrivener, 2022; Bonnissel – Gissinger et al., 1998)ため、LAL法における溶媒(水)による酸化の影響を確認することが可能である。
今回は、黄鉄鉱に対して水を溶媒に用いたLALを行い、得られた微粒子の個別元素組成分析の結果を発表する。さらに、走査電子顕微鏡(SEM)による、LALで生成した微粒子のサイズ・形状の観察結果と合わせて、黄鉄鉱のLALにおける微粒子生成過程について考察する。


発表者:伊藤健吾
Speaker: Kengo Ito

タイトル:ブラチナイト中のカルシウムリン酸塩の形成機構・時期と小惑星内部におけるハロゲン進化への示唆
Title: Ca-phosphates in a brachinite: implications into sulfur gas and halogen evolution in an asteroidal body at 4.5 Ga

要旨:
カルシウムリン酸塩の一つであるアパタイト[Ca5(PO4)3(F,Cl,OH)]は、 多くの地球外物質に普遍的に含まれる鉱物で、揮発性元素(F、Cl、OH)と希土類元素(REE)の重要なキャリアである(Harlov, 2015; Hughes and Rakovan, 2015)。過去数十年の間、地球外物質中のアパタイトは以下の目的、(1) 岩石形成と化学進化の制約(Ward et al., 2017)、(2) 火星、月、小惑星におけるハロゲンや水の起源、存在量、進化の理解(McCubbin et al., 2021)、そして、(3) その母岩が経験した地質学的イベントの年代決定(Norman and Nemchin 2014; Yin et al. 2014)  のために広く研究されてきた。
ブラチナイトは始原的エコンドライトの一種であり、FeOに富むカンラン石が大部分(>70 vol%)を占めるカンラン岩であり、部分溶融残渣であると考えられている(例えば、Nehru et al., 1983; Keil, 2014)。 ブラチナイトには、輝石ートロイライト反応組織がカンラン石粒間に広く分布しており、岩石形成後に硫黄に富むガスが流れた痕跡と考えられている(Goodrich et al., 2017)。ブラチナイトにおいてアパタイトは、その産状が報告されているものの、現在のところ、その鉱物学的特徴や起源はまだ詳しく研究されていない(Rumble et al., 2008; Hyde et al., 2014)。
本研究では、リン酸塩に富むブラチナイト NWA 10932中のカルシウムリン酸塩に着目し、その鉱物組織、主要元素・微量元素組成とウラン–鉛年代を調べた。ブラチナイト中のカルシウムリン酸塩は、アパタイトとメリール石[Ca18Na2Mg2(PO4)]がコアーリム構造を有しており、リムのメリール石に伴って、輝石ートロイライトシンプレクタイトが観察された。これらの鉱物組織は、硫黄ガスによってアパタイトからメリール石が2次的に形成されたことを支持する。また、アパタイトとメリール石はともに~45 億年前のウラン–鉛年代を示したことから、45億年前にブラチナイト母天体内部において高温の硫黄ガスが存在したことを示唆する結果となった。本発表では、併せて45億年前のブラチナイト母天体におけるハロゲン進化についても議論する。