2020年5月1日

Date: 16:00-18:00, Friday, May 1, 2020
Speaker: Takato Ono, Ko Fukuyama

日 時:2020年5月1日(金)16:00-18:00
講演者:大野 鷹士、福山 鴻

講演者:大野 鷹士(Takato Ono)
タイトル: H2-H2O-CO2システムの同位体交換に基づく火山ガスの出口温度および水同位体組成のプリューム内推定
Title: In-plume estimations of outlet temperature and water isotopic composition of volcanic gases based on isotopic exchanges in the H2-H2O-CO2 system

火山ガスの主成分である水(H2O)と二酸化炭素(CO2)の同位体組成は化学組成からは得られない固有の情報を与える。数多くの噴気ガスの繰り返しサンプリングとその分析によって、火山性H2Oの水素・酸素同位体組成は噴気の出口温度や火山活動の盛衰に応じてよく変動することが分かっている。また、火山性CO2の炭素同位体組成は火山システムにおける炭素源の識別に有用なツールとして知られる。近年、上記の同位体組成は噴気孔からの直接サンプリングなしに、噴気孔からある程度離れた場所でもプリューム(噴気ガスと周辺大気の混合気体)を直接観測あるいは採取・分析することで推定できることが示されてきた。そのほかにも、火山性水素(H2)の水素同位体組成や火山性CO2の酸素同位体組成に関してプリュームからの推定が可能であることが示されてきた。しかしながら、H2Oに関しては対流圏大気の主成分でもあり、バックグラウンドレベルでの濃度変化も大きいことから、多くの場合、プリュームベースの観測で火山性H2Oの同位体組成を推定することは容易ではない。
そこで本研究では、H2-H2O-CO2システムの同位体交換平衡に着目し、採取したプリューム試料から推定された火山性CO2の酸素同位体組成を同様の方法で推定された火山性H2の水素同位体組成と組み合わせることで、プリュームから直接推定することが難しい火山性H2Oの水素・酸素同位体組成と噴気の出口温度を同時に推定する新たな手法を提案した。本発表では、提案した新手法を日本の3つの安山岩質火山(樽前山・霧島硫黄山・阿蘇山)に適用した結果を紹介する。

講演者:福山 鴻(Ko Fukuyama)
タイトル: 高温高圧下におけるpericlase (MgO)への窒素取り込み量の検討
Title: Investigation of nitrogen incorporation to periclase under high-pressure and high-temperature.

窒素は地球大気の約8割を占め、生命の必須元素であることから、地球における気候、生命起源を議論するうえで重要な揮発性元素である。しかし依然として、地球内部における窒素の挙動については詳細には理解できていない。例えば、コンドライト組成によって規格化された現在の地球の窒素存在量は、他の揮発性元素の1/10未満と枯渇している (Marty, 2012)。この窒素が枯渇する原因として、マグマオーシャンの固化を経ることにより、マントル鉱物が窒素を地球深部に貯蔵した可能性が示唆されてきた(e.g. Li et al., 2013; Yoshioka et al., 2018)。しかし、地球で最も容量が大きい下部マントルでの窒素の貯蔵に関する先行研究の実験回数は十分でなく、bridgmaniteが1回, Ca-perovskiteが2回しか行われていない(Yoshioka et al., 2018)。特に下部マントルで2番目に存在量を占めるpericlaseに関しては、実験報告が行われていない。
本研究では、下部マントルへ窒素を貯蔵しうるpericlaseに窒素がどれほど取り込まれるか検討するため、28 GPa、1600 ̊C-1700 ̊Cの条件で高温高圧実験を行った。出発物質はMgO粉末に窒素源 (15NH415NO3)を入れ、固相はpericlaseだけが生成される条件にしている。実験には愛媛大学GRCのマルチアンビル高圧発生装置を使用し、下部マントル相当の酸化還元状態のコントロールにはFe-FeO bufferを用いた。急冷回収試料中の窒素の分析には大気海洋研究所のNanoSIMSを使用し、窒素を15N16O-として検出した。昨年のセミナーで報告した試料に加えて、2つの試料をNanoSIMSで分析したので、その結果を今回のセミナーで報告する。具体的には、前回の報告と大きく異なり、periclase (MgO)には、ほとんど窒素が検出されなかった点を主に紹介する。このような原因として、①出発物質の違いと②温度条件の安定性 (今回さらに報告する回収試料は、精度よく温度をモニターすることができた)が考えられた。